それは手から始まる恋でした
 結局彼の話は夕食の時間までかかった。今日は移動して外で食べることになっている。

「なんでぇお好み焼き屋なんですかぁ?」

 誰もが思っていた疑問を躊躇なく鮫島さんが聞いてくれた。

「今日は俺が皆をもてなすからだ。俺はバーベキューとお好み焼きならできる。でもこの時期にバーベキューは寒いからお好み焼きだ」
「どっちもぉ焼くだけですよねぇ」

 鮫島さんの鋭い突っ込みが爆裂している。戸崎さんと関係を持ったことで高良に遠慮がなくなったのかこの旅行で高良に親近感を持ったのかは分からないが、皆が言えない一言を言って私が笑い、周りも笑い場が和んだ。

 高良は貸し切った店のカウンターの鉄板で自慢げにお好み焼きを焼いている。
 皆が周りで見ていたので私は戸崎さんと端の席でビールを飲みながら話していた。

「鮫島さんとお付き合いされるんですか?」
「あはは。それ聞いちゃう? さすがにあの子に裸で馬乗りになられたら理性飛ぶよ」
「え? 鮫島さん裸になったんですか?」
「今の内緒ね。まぁ、流れに任せるよ。鮫島さんだってきっと次見つけてくれるだろうしさ」
「好きじゃないんですか?」
「可愛いなとは思うよ。でも男にだらしないのがね」
「好きじゃないのにできるんですか?」
「そりゃ、俺も男ですから。波野さんも割り切った関係で良ければいつもで相手するよ。波野さんなら抱けると思う」

 戸崎さんはまだ酔っ払っているようだ。

「え? 戸崎さんって波野さんの事好きだったんですか?」

 トイレから出てきた社員が何を聞いたのかそう叫んだ。皆の視線の中に混じって鋭い視線を向けている人が2名程いる。

「違うよ」
「だって今、波野さんを抱くとかなんとか言ってましたよね」

 高良が固まっている。鮫島さんは不気味な笑みを浮かべながら私達の所にやってきた。

「どういうことですかぁ?」
「違うの違う。誤解。男性って好きでもない女性とそう言う事できるって話を……」
「何が言いたいんですかぁ?」
「戸崎さんに抱かれたいのか?」

 高良まで食いついてきた。

「違いますよ。鮫島さんに言いたいこともないし、戸崎さんに抱かれたいなんて思ったこと一度もありません」
「分かった。だが変な誤解を生じさせて罰だ。今日は片付けと掃除だ。来た時よりも綺麗にすること」
「はい?」

 戸崎さんはバツが悪そうに鮫島さんを慰め、それを見ていた皆はそういうことかと理解し、食に走りお腹いっぱいになると帰っていった。

 そして私は何故かお店で片付けと掃除をしている。高良は店の店長も帰らせ、一人座って私の掃除する姿をつまみにお酒を飲んでいる。

「あの、お酒飲んでいるだけなら手伝ってくれませんか?」
「俺は食わずに焼いてお酒もろくに飲んでいない」
「それは知ってますが」
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