それは手から始まる恋でした
 あれから一週間。私は無事に彼に見つからずに最終日を迎えた。
 実は少し期待していた。彼が私に一目ぼれしてシンデレラを探した王子のように探し続け、そして偶然訪れたこの部署で私を見つけてくれるのではないかと。でもそんなことは現実では起こらない。もっと言えば彼は私の部署に一度足を運んでいる。だが私と目があっても気付きもしなかった。

「総務に行ってきます」

 3年間お世話になったこの会社も今日で最後。
 この会社に派遣された当初はいずれは正社員という話だったが配属された先のセクハラ部長が苦手で関係性を上手く作れなかった。それでも女性の課長が私の仕事を認めてくれていて3年間契約を継続できたがそれで精一杯だった。次の派遣は22歳の女子で部長の鼻の下はもう伸びている。

 部長を見なかったふりをして、私は与えられていた備品や社員証を返却しに総務部を訪れた。

「こちら返しに来ました」
「すぐに終わるからちょっと待ってね」

 総務の三谷(みたに)さんは、派遣当初から私に優しく接してくれる総務の母だ。三谷さんが対応している相手は長身で高そうなスーツに細身の銀縁眼鏡……。

 ドS御曹司!

 運命の再会と言いたいところだが、彼は私を覚えていない。逃げる必要も隠れる必要もなかった。私は両手で備品を持ったまま受付のテーブルの上に腕を乗せて待っていた。忙しそうにする三谷さんが一旦席に戻っているのを眺めていると気配を感じた。彼の手が私の手に向かってきた。

「すみません。行儀悪いですよね」

 私はテーブルの上から腕を離し姿勢を正しく立った。最後に罵倒されては後味が悪い。

「いや」
「高良さんお待たせ。これで大丈夫よ」

 彼が何か言おうとした瞬間、三谷さんが戻ってきた。
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