それは手から始まる恋でした
「戸崎さん」

 高良は戸崎さんを見るなり小走りで向かってきた。

「あぁ高良君、この間言ってたやつなんだけどさ」

 高良は戸崎さんを連れて会議室へと移動した。私なんかが聞いてはいけないトップシークレットなのかもしれない。

「波野さんってぇ、戸崎さん狙いなんですかぁ?」

 鮫島さんが私のところにやってきて耳元で聞いてきた。この子はいつ仕事をしているのだろうか。

「私は誰も狙っていませんよ」
「えぇ、波野さんってぇ戸崎さんと話しているときぃいつも楽しそうだしぃ今も顔赤いですしぃ」
「赤い?」
「気づかない恋ってやつですかぁ?」
「そんなんじゃないですよ」
「協力してあげますぅ。その代わりにぃ波野さんも私に協力してくださいねぇ」
「何さぼってるんだ」

 話が終わったのか高良が戻ってきて私を睨みながら話しかけてきた。

「それがぁここだけの話ですよぉ。波野さん戸崎さん狙いみたいでぇ私が協力してあげますよって言ってたんですぅ。ほら波野さんいい年でしょぉ」

 高良がますます不機嫌になっている。お願いだから鮫島さん黙って自分の席に戻ってください。

「違いますよ。鮫島さんが勘違いされているようで」
「波野さんの顔ぉ真っ赤じゃないですかぁ。これぇ」
「鮫島、さっさと席に戻れ。波野、こっちに来い」

 呼び捨てだ。怒っている。鮫島さんも高良が怒っていることに驚いたのか小さくなって席に戻った。私は高良の後をついていき、会議室の中に入った。

「どういうことだ。いつから戸崎さんを好きになったんだ」
「だから違いますって」

 高良は私を壁際に追い込み私が逃げられないようにした。高良は冷たい目をしている。

「俺が仕事している間に他の男に心変わりしていたのか? 楽しそうに笑いやがって」
「何言ってるんですか? 私はただ戸崎さんと話してただけです。心変わりなんて……」
「なんで黙るんだ。そうか、そうだよな。お前は最初から俺のことなんて好きじゃなかったよな」
「それは……」

 なんだかクラクラする。高良が近くにいるからだろうか。

 高良の声が遠くに感じる。

 ……
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