それは手から始まる恋でした
   ***

「穂乃果がなんか愚痴ってだぞ。女が仁の家に来て追い出されたって。その女、ホッカイロちゃんだろ」
「あいつに言うなよ。話がややこしくなる」

 戸崎先輩は要注意人物になったが、紬が風邪をひいたことで危機は脱出したらしい。弱っていたせいでいつもの壁がなくなった彼女は可愛かった。アイスを食べて微笑む姿なんて最大級に可愛かった。

 正直手を出したくてたまらなかったが、そこは我慢した。今度拒否されたらきっともうあの手に触れることができなくなる。

 あの後俺も風邪を引いてしまい、紬は穂乃果と遭遇してしまったが、それは問題にならなかった。紬の作った雑炊はめちゃくちゃ美味かったが、あまり喜ばれてまた無邪気な笑顔を見せられると我慢できなくなりそうだったので味はまあまあと伝えたが、あの時は本当に紬を食べたかった。

 必死で本能を理性で押し殺したがこれから一緒に住むとそうはいかない。女に嫌われるのなんてどうでもいいと思っていた俺が、紬には嫌われたくないと思ってしまう。今まで簡単に手を出していたのに彼女に手を出そうとすると震えてしまう。服の上から抱きしめるのが精一杯だ。

「親父さんに何か言われたか?」
「別に。でも前から社員に手を出すな、金目当ての一般人には気をつけろって言われてる」
「あはは。社員にしなきゃよかったのにな」
「あの時はまだこんなことになるなんて思ってなかったからな」
「でもあんまり期待させるなよ。結婚なんてせがまれたら大変だからな」
「別にいいだろ。結婚したきゃしてやる」
「は? 仁、どうした。お前次期社長だぞ。その奥さんが都下大出身ってまず反対されるだろ」
「金目当ての浪費女よりいいだろ」
「ホッカイロちゃんも浪費女になるかもしれないぜ。女なんて男でコロッと変わるからな」
「そしたら俺が根性叩き直す」
「そんなにいい手なのか? テクか? もうやったのか?」
「下劣だな」
「だって穂乃果言ってたぜ。可もなく不可もない子だったって。それに手だって可愛いピンキーリング以外は特段褒めるところなかったって」
「へぇ。世の中の男が皆そう思ってくれれば御の字だ」

 彼女の手は触って握ってみなければ分からない。誰も気づかず俺だけ知っていればいい。

 そして、来週末から待ちに待った彼女と同棲生活が始まる。
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