それは手から始まる恋でした
   ***

 俺は何を暢気に週末を陵と過ごしていたんだ。その間に紬を狙う男が彼女の手に触れ、手だけでなく俺がまだ触れてもいない体にも触れていたらしい。どこをどう触れられたか問いただしたいが、今は我慢だ。

 俺は車で彼女を連れて彼女の家に来ている。こんなセキュリティーゼロのアパートに住むなんて何を考えているんだこの女は。

「あの、これ持ってくれます?」
「あぁ」

 紬が差し出してきた荷物は、これから彼女が運ぼうとしている荷物の中で1番小さい。普通は男に重いものを持たせるだろ? 

 それにしてもここで他の男と……。

「あのベッドか?」
「え?」
「寝たのはあのベッドかと聞いている」
「はい」

 俺は紬の手を取り、無意識のうちに彼女をベッドの上に押し倒していた。

「高良さん?」

 紬の頬は手にも負けず柔らかい。ここで他の男とキスか。俺は彼女にキスをした。

「そいつと俺どっちがいい」
「え?」
「キスはどっちがいいんだ?」
「……高良さんです」

 嘘はついてなさそうだ。俺は手を彼女の腰のあたりに当てた。少しずらせば彼女の素肌に触れる。そう考えると何故か緊張してきた。

 この俺が女の肌に触るだけで緊張する? そんなのはあり得ない。

「寒いですか? 暖房付けます?」
「いや。帰る」

 重そうな荷物2つ抱えて俺は玄関を出た。この女は男に頼ることに慣れていないらしい。これまでどんな男と付き合ってきたのだろうか。それとも、もしかしたら本当に……。
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