それは手から始まる恋でした
 両親に伝えれば解決しそうだが、穂乃果さんはそうはしなかった。

 穏便に済ませたいと旦那さんにも言わずに一人で悩んでいたそうだ。今日は高良の誕生日だったので久しぶりに電話したそうだ。そして穂乃果さんは高良の声を聞いて号泣したため高良は彼女のもとに駆け付けた。

 胸がぞわっとした。高良は彼女のことをまだ好きなのだろうか。いや、もし港が同じような状況だったら私も行くだろう。負の感情は自分の中で断ち切らないと。

「それでこれからどうするの?」
「愛人が望んでいるのは穂乃果公認になること。おそらく旦那の方から別れをほのめかしたんだろう。そうじゃないとそんな変な申し出はしてこないだろう」
「じゃあ、旦那さんに言えばすぐに解決するんじゃないの?」
「紬、ごめん。俺たちのような立場だとそう簡単に物事を進めることができないんだ」
「紬さん、ごめんなさいね。多分あなたには分からないと思うの。私たちのことはいいのでお休みになって」

 休むも何も私はまだ夜ご飯も食べていない。でもこの状況でそれは言えなかった。私は飲み物を取りながらこっそり菓子パンをもって寝室に移動した。

 リビングから穂乃果さんの笑い声が聞こえる。元気じゃないか。今日穂乃果さんはどこで寝るのだろう。そして、高良は誰と寝るのだろうか。

 暫くするとチャイムが鳴り人の声がした。

「ごめん、紬、紬の荷物今からこっちに持ってくるから人はいるけどいい?」
「あ、うん」

 私の荷物は寝室に運び出され、私の部屋にしていたところにベッドが運び込まれていた。私はずっとベッドの上で体操座りをしていた。スマホも触る気が起きないし、本も読む気になれない。

 穂乃果さんは、お風呂に入っているようだが高良は寝室にやってくる気配がない。膝を抱える腕に力が入る。考えないようにしている最悪の結末がどうしても頭の中に浮かんでくる。
 穂乃果さんの声が廊下に響き渡り、高良が穂乃果さんと同じ部屋に入ったことが分かった。

 なんで入るの? 涙が止まらない。穂乃果さんは綺麗だ。そして食べさせてなんて言える可愛い子だ。一緒に寝て欲しいなんて事も躊躇なく言える。でもそんなことを言われたとしても高良がそれに応じる必要はどこにもないはずだ。私は涙を懸命に拭いながらなかなか寝室に入ってこない高良を待っていた。そして私はいつの間にか寝てしまった。

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