それは手から始まる恋でした
   ***
「今日は機嫌がいいな」
「そうか? それはそうと、やっと見つけた」

 彼女を見つけた日、俺は行きつけのバーに立ち寄った。そこには幼馴染の(りょう)がいた。

「見つけたって何を?」
「あの子だよ」
「あぁ、ホッカイロちゃん?」
「そのニックネームはやめろ」
「あの日の仁の荒れようは凄かったからな。結婚する前に略奪すりゃよかったのに」
「そんなことするか。ただ、可愛い妹が結婚するみたいな感覚だよ。まさか俺らの中で最初に結婚するのが穂乃果(ほのか)とはな」
「そりゃあんな綺麗な社長令嬢手に入れたら、誰かさんみたいにいつまでも放っておかないだろう」
「何が言いたい? 俺は女に本気になる男の気がしれない」
「モテる男は違うね~」
「お前だって同じだろ」
「俺は仁ほどじゃない。それより、ホッカイロちゃんとはどうなんだ? もうやったのか?」
「はぁ? あいつは手だけだ。手以外なんの取柄もない。顔も普通、モデル体型とは程遠い肉付きで、それに今どき英語が全くできないときた」
「そんなに綺麗な手なのか? 手タレとか?」
「手タレは無理だろう。でも触ったら最後、すべすべで柔らかくて温かくてずっと触っていたくなる感じ。ネイルはしてないけど、手入れはしていて爪は透明でつやつやしている」
「幸せそうだな。お前に触られてホッカイロちゃんも喜んでんだろ、どうせ」
「それが……」

 誰もが俺に触れられると顔を真っ赤にして喜ぶのに、波野さんは違った。迷惑そうな顔をし、二度目の握手には答えてくれなかった。なんだか悔しくてハグしてしまったが、ハグよりもあの手に触れたかった。
< 9 / 118 >

この作品をシェア

pagetop