それは手から始まる恋でした
***

 俺は穂乃果と寝た。
 もう何もかも分からなくなって穂乃果に触れた。でも、できなかった。
 穂乃果に触る度に紬を思い出す。触れることさえやめた俺に穂乃果は泣きわめき俺はただ抱きしめることしかできなかった。あれ以来、穂乃果には触れてない。翌日の穂乃果の荒れようは酷かった。何を言っても駄目だった。

 以前、俺の家に穂乃果がいることを知った親父に事情を話すと、穂乃果と結婚すればいいと言い、結婚したら役職をつけてやると言った。俺の実力ではなく穂乃果の家柄で俺は認められる。俺の頑張りなんて、俺の思いなんて皆どうでもいいんだ。全てがどうでも良くなった。

 俺は穂乃果の言う通り結婚することを承諾した。結婚したければ結婚してやる。

 どうでも良くなったら優しくなったと言われた。俺は優しくなったんじゃない。誰がミスしようが、誰が問題を起こそうが俺には関係なくなっただけだ。

 穂乃果は紬と会っていた。そして紬は勘違いをしている。俺はマリッジブルーなんかじゃない。でも穂乃果と結婚の話がある以上、俺は何も言えない。俺の人生はこんな風に終わっていくのかとオンボロアパートで紬が寝ている後姿を眺めながら長い夜を過ごした。
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