鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
わかってもらえない気がして。

袴田課長は可哀想だとは言わないだけましだが、彼でもこの傷を醜いという。
でも神月さんは――可愛いと言ってくれた。

「……嬉しい」

「うん」

「嬉しい……!」

「うん」

ずっと苦しかった心が解放されていく。
こんなに満ち足りた気分は、初めてだ。

「泣きやんだかい?」

「……ん」

そっと私の眼鏡を外し、神月さんが指先で目尻に残る涙を拭ってくれる。
そんなことが、心地よかった。

「そんなに目をとろーん、とさせて。
泣き疲れて眠くなってきちゃったかな?」

ちゅっ、と瞼へ口付けを落とし、ふふっ、と小さく笑う。
なんだかそれが、とても安心できた。

「いいよ眠って。
なにもしないから安心していい。
僕の可愛い可愛いお姫様……」

神月さんの優しい声と共に意識がとろとろと溶けていく。
ぽす、と彼の胸に額を預け、そのまま眠ってしまった……。
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