【番外編】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「ねえ、マーガレットは卒業パーティーに出ないの?」
「そうよ、最後なんだから、三人で出ましょうよ」

 わたしたちがいくら誘っても、マーガレットは首を縦には振ってくれない。
「平民のわたしが行ってもみすぼらしいだけだし、ダンスも踊れないもの。誰からも誘われてないしね。それよりも早く実家に帰って弟たちの服を作ってあげたいのよ」

 そんな寂しいことを言わないで…と言おうとしたところで、何やら視線を感じて顔を巡らせると、柱の陰からルシードがこちらを窺っているのが見えた。

 ルシったら、何やってるの。
 あなたもう背が高くなりすぎて丸見えよ!

 チョイチョイと手招きをすると、ビクっとした後ブンブンと首を横に振り、逆に向こうが手招きをしてきた。

 何かしら?
「ルシが呼んでいるから、少し外すわね」
 リリーとマーガレットに断って席を立ち、ルシードの元へと向かう。

 ルシードはこの一年でさらに背が伸びて、おそらくすでに実兄のキースを追い越す高さになっていると思う。
 小さくて細くて、ダンスでわたしにグルングルン振り回されていた、あの可愛らしいルシはもういない。
 髪は相変わらずボサボサだし野暮ったい黒縁メガネ姿も健在ではあるけれど、背が高くなったことで最近のルシードはモテモテらしい。

「ルシ、何やってるのよ。あなた怪しすぎるわ」
「あ、あのね、ステーシアさんに卒業パーティーのことで相談があるんだ」

 通りかかる生徒たちが、わたしとルシードを好奇心に満ちた目で見ている。

「ちょっと、こっちへ来て」
 ルシードの腕を引っ張って人の少ない場所へ移動した。

「ごめんなさい、わたしのパートナーはレイナード様に決まっていて…」
「ああ、いや…そういうことじゃないんだ」

 てっきりわたしを卒業パーティーのパートナーに誘うつもりなのだと早合点してお断りしようとしたら、違ったらしい。
 これはなんとも自意識過剰な恥ずかしいやつだ。

 いやあぁぁぁっ!わたしの馬鹿っ!と心の中で叫んだ。

< 8 / 32 >

この作品をシェア

pagetop