砂浜に描いたうたかたの夢
心臓が激しく音を立て始め、顔が青ざめていく。すると、背中に手が回り、そっと抱き寄せられた。



「……怖かったよね。でももう大丈夫」

「……っ」



小さな子どもをあやすように、背中をトントンしつつ擦ってくれた。


高台で号泣した時は壊れ物を扱うみたいな触れ方だったけど、今はしっかり擦られていて。手のひらの温かさがハッキリと伝わってくる。

じわじわと涙が込み上げてきて、こぼれ落ちないように唇を噛みしめた。



「……あっ、ごめん」



その優しさに甘えたくなって自分も背中に手を回そうとしたのだけれど、惜しくも体が離れてしまった。



「いきなり、嫌だったよね」

「ううんっ。全然……」



そんなことないよ。そう小さな声で付け足すも、視線は彼ではなく帽子に。


距離は遠くなったはずなのに、顔が真正面にあって直視できない。

おかしいな。高台で見つめられた時は安心感で満たされていたのに。

今は胸がドキドキしてて、顔を合わせないで済むハグのほうがマシだと感じてしまっている。
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