猛毒蟻(ヒアリ)
第5話
9月4日の朝8時30分のことであった。

きよひこが勤務していた学校で、ものすごく恐ろしい事件が発生がした。

担任の代行を任されていた学年主任の先生が教室に入った時であった。

クラスの子たちが始業時間になっても教室にいないことに気がついたので、顔が真っ青になった。

「みんなおはよう…って、どういうことだ!!」

学年主任の先生は、真っ青な顔でソットウした。

きよひこが担任を務めていたクラスの子たちが、クラス単位で授業をボイコットした。

そうした余波は学校内にまたたくまに拡大したので、学校は機能不全におちいった。

その頃であった。

きよひこからDVの被害を受けたよしえは、嬬恋村(群馬県)の実家にみちるとみちよと一緒に避難していた。

しかし、実家の両親から『よしえの出戻りが原因で弟(36歳)にお嫁さんが来なくなってしまったらどうするのよ!!』とあつかましく言われた。

ブチ切れたよしえは、みちるとみちよを連れてきよひこの家にまた戻った。

よしえは、実家の両親から実家から出ていけと言われた…

しかし、きよひこの両親からも出ていってくれと言われた…

双方の板挟みに遭ったよしえは、苦しい立場におかれた。

どうすればいいのよ…

アタシは、みちるとみちよを連れてどこへ行けばいいのよ…

そうしたギスギスが原因で、きよひこの家では次々ともめ事が発生した。

みちるは、7月に通りがかりの複数の男たちからレイプの被害を受けたことが原因で、善悪の区別が分からなくなった。

それが原因で、恐ろしい事件が家庭内で発生した。

事件は、9月14日の夕方5時頃に発生した。

よしえが晩ごはんの買い出しから帰って来た時であった。

きよひこの両親ときょうだいたちが暮らす住居でともえが激しい声で叫んで暴れていたのを聞いたので、大急ぎでとなりの住居へ駆けつけた。

一体、何が起こったのよ…

よしえは、必死になって居間で暴れているともえを止めた。

この時、ともえは落ち着いて話をすることができなくなっていた。

「ともえさん!!」
「イヤ!!イヤ!!」
「ともえさん、落ち着いてよ!!」
「イヤ!!アタシの人生はもう終わったのよ!!」

ともえは、テーブルに顔をふせたあと激しい声をあげて泣き叫んだ。

よしえは、ともえに送られて来たお見合い写真がペイントマーカーでズタズタに落書きされていた。

その上に、釣書にお見合い相手の経歴に傷をつける文言が赤の油性マジックでズタズタに書かれていた。

これは、みちるがやったにちがいないわ…

そう思い込んだよしえは、思い切りブチ切れた。

この時、制服姿のみちるがあられもない格好で帰宅した。

怒り心頭になっていたよしえは、みちるをみるなり平手打ちで顔を思い切り叩いた。

「みちる!!」

(バシッ!!バシッ!!バシッ!!)

よしえに強烈な力で顔を叩かれたみちるは、口をとがらせて反論した。

「痛いわね!!何でアタシがおかーさんに叩かれないといけないのよ!!」
「みちるが悪いことをしたから叩いたのよ!!」
「アタシが一体何をしたと言うのよ!!」
「あんたのせいで、ともえおばさまの縁談が壊れたのよ!!」
「知らないわよ!!」
「ふざけるな!!ワーーーーーーッ!!」

(バシッ!!)

よしえは、奇声をあげながらみちるの顔を平手打ちで3倍の力を込めて叩きまくったあと『みちよの方が素直で言い子だわ!!』などと言うてみちるをバトウした。

よしえからバトウされてひどく傷ついたみちるは、泣きながら家を飛び出した。

よしえは『うちは悪くないもん…』と言うてプンとひねていた。

その日の夜のことであった。

きよひこは、栄の中ノ町公園で高校時代の友人と会っていた。

この時、ひどいトラブルが発生した。

9月1日にきよひこが借り入れた8万円を返してくれとせと友人がきよひこに凄んでいった。

それが原因で大ゲンカに発展した。

「オラオドレ!!オドレはどこのどこまでオレをグロウする気だ!!」
「ゆ、許してくれぇ〜」
「オレから借りた8万円をいつになったら返すんや!!」
「もうしばらくだけ待ってくれ…もうしばらくしたら大金が入る…」
「オドレ!!今すぐに8万円を耳そろえて返せ!!」
「待ってくれよぉ…手束、手束…」
「オドレに貸した8万円は、家を買うためにとっておいた頭金の一部だぞ!!」
「待ってくれよぉ…苦しいのだよぉ…」
「オラオドレ!!カネが返せんと言うのであれば、オドレの命で払え!!」
「命で払えって…」
「オレの知人の知人にやー(やくざ・チンピラ)がいる…今からやーにオドレのしたことを言うぞ!!」
「分かった…返す…返すから命だけは助けてくれぇ…」

きよひこは、必死になって友人に許し乞いをした。

それを聞いた友人は『ほんなら1週間だけ待ってやる!!』ときよひこに言うた。

その場はしのぐことができたが、きよひこは友人とのヤクソクをきれいに忘れていた。

それが原因で、きよひこの家族に次々とよくないことがつづいた。

きよひこが友人にカネを返す期限の前日のことであった。

たけひこが運送の仕事中に商品を傷つけてしまうトラブルを起こした。

たけひこはこの日、常滑市へ配送に行ってた。

荷下ろし中に精密機械をあやまって落として破損させた。

頭がサクラン状態におちいったたけひこは、トラックに乗ってとなり町ヘ逃げた。

たけひこは、となり町のマリーナの近くの河口に配達する荷物を全部棄てた後、トラックを走らせて逃げ回った。

この時、たけひこが荷物を河口に棄てている現場を通りがかった人がスマホのカメラで撮影していた。

その写真は、撮影した人のツイッター(SNS)にアップされた。

さらにその上に、リツイートの件数が1000件以上に上った。

それが原因で、騒ぎが拡大した。

その上に、トラックを乗り捨てた場所は法定の駐停車禁止場所であったので、騒ぎがさらに拡大した。

たけひこは、この日を境に家に帰らなくなった。

同時に、逃亡生活を強いられることになった。
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