黒幌に呑み込まれる
愛し合う
二人は、順調に交際を続けていく━━━━━━

“公私混同はしない”
二人でそう決めて、会社内では“黒部くん”“麦倉先輩”と呼び合い、真幌は神楽に変わらず敬語で接する。

ただ違うのは、真幌に対する周りの対応だ。

“暗い”“キモい”“ウザい”が……
“爽やか”“素敵”“ハイスペ”に変わった。

そしてあれだけ、仕事が遅くみんなを苛立たせていた真幌。
今は誰よりも早く、確実に、完璧に仕事をこなしていく。

その上、神楽のフォローまでしているのだ。

「黒部くん、ここは大丈夫だよ。
自分の仕事して?」
「あ、大丈夫ですよ。
俺、終わりましたから」

「へ?終わったの!?」

「はい!だから、麦倉先輩を手伝います!」
「早い…」

「フフ…だって、神楽とできる限りくっついてたいんだもん……!」
と、耳元で囁く真幌。

「なっ…/////」

神楽は、翻弄されてばかりだった。


真幌が完璧に仕事をこなす為、久我は神楽を目の敵にするようになった。
神楽は相変わらず、作業が遅いから。

「麦倉さーん!
今日の午後からの会議の資料はー?」
「あ、はい!ここにあります!」

真幌のフォローのおかげで、なんとか資料を作成した神楽。

「だったら早く、会議室に持っていきなさいよ!」
「はい!すみません!」

神楽が資料を抱き締め、パタパタと会議室に向かった。

真幌はそんな神楽の後ろ姿を、ただただ見つめていた。


「━━━━━━久我先輩、これお願いします」
真幌が淡々とした口調で、資料をデスクに置いた。

「あ…うん…確認しておくね……!」
“あの”ランチの一件から、久我は真幌にだけはとても気を遣うようになっていた。

その為、話す時も少々怯えぎみだ。

「は?
“確認しておくね”じゃなくて、今確認してください。
今確認しないと、この資料、係長や課長の了承も必要なんですよ?
見たところ、その作業は今しなくてもいつでも大丈夫なやつですよね?
優先順位を、一瞬で判断して対応してください」

「あ、うん、わかった」
「あ、あと!」
「え?」
「昨日貰った資料。
日付間違ってましたよ。
修正して、先方に送りましたから」

「あ、ごめんね。ありがとう」

真幌は、淡々と言って自分のデスクに戻ったのだった。
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