熱く甘く溶かして
* * * *
 
 恭介が風呂に入っている間、智絵里はソファに座ってソワソワしていた。

 いろいろなことが久しぶりだった。誰かと買い物に行ったのも、温かいお風呂に入ったのも、誰かが入るシャワーの音を聴くのも、色のある部屋にいることも。

 膝を抱えてうとうとしていると、恭介が浴室から出て来る。グレーのスウェットの上下を着て、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。

 ラフな恭介も新鮮で、智絵里は一つ一つのことにドキドキが隠せなかった。こういうことが積み重なって恋になっていくのだろうか。だとすると、昨日から智絵里はドキドキしっぱなしだった。すぐにでも恋に変わる予感すらしている。

「智絵里も何か飲む?」
「ううん、大丈夫」
「そうだ。智絵里の家の冷蔵庫にあった野菜ジュース、一番上の段に入れてあるから」
「持ってきてくれたの?」
「だって智絵里、朝食食べて帰ってきてからも飲んでただろ? 朝のルーティンみたいになってるのかと思ったら処分出来なかった。その代わり栄養バーは松尾さんにあげちゃったけど」
「さすが恭介、私のことをよくわかってるね。日課になってるから、なくなると不安になっちゃいそうだったの」

 恭介は智絵里の隣に座ると、彼女の手を取る。真剣な表情で智絵里を見つめ、その手にそっと口付ける。

 ここまでは昨日の夜に智絵里が"して欲しい"と言ったことだった。

「今夜はどうしようか。俺の寝室で一緒に寝るか、隣の部屋に布団を敷いて一人で寝るか」

 恭介は優しく微笑む。

「好きな方を選んでいいよ」

 智絵里の頭に昨日の記憶が蘇る。

 ずっと不眠に悩まされていたのに、目が覚めた時に恭介がいただけであんなにも安心出来た。

「……恭介と一緒に寝たいな。一人にしないで欲しい……」
「しないよ。大丈夫……」

 恭介の手が智絵里の髪を撫でる。それが気持ち良くて、智絵里はそっと目を伏せた。
< 33 / 111 >

この作品をシェア

pagetop