熱く甘く溶かして

 場所を変えて智絵里を待とうとした時、背後から強烈なタックルを受けて倒れそうになる。

「な、なんだよ⁈」

 驚いて振り返ると、智絵里が顔をこわばらせて立っていた。今にも殴りかかってきそうな雰囲気に、恭介はたじろいだ。

「ち、智絵里?」
「……見てたから。最初から最後まで。誰? 俗に言う元カノってやつ?」

 そこまで言ったのに、智絵里は顔を背け、恭介の返事を待たずにスタスタと家の方角へと歩き出す。

「帰る」
「ちょっ……待てよ!」

 恭介は智絵里を引き止め、手を握る。振り払われるかと思ったのに、智絵里はその手を握り返してきた。

 あぁ、もうこれだから智絵里がいいんだ。予想外の反応を見せた智絵里に、恭介はつい笑顔になる。このツンデレっぷりが堪らない。

「一応言っておくけど、智絵里と会う前に別れてるから。俺から別れたし」
「……」
「会ったのもたまたまだよ。あいつも同じビルで働いてたのには驚いたけど」
「……もう迎えに来なくていいよ」
「……なんで?」
「……」

 智絵里の手の力が強くなる。そこではっとする。もしかしてこれってヤキモチ? そうなら嬉しすぎる。智絵里の中で、俺はちゃんと恋人になっているんだ。

「わかった。これからは少し離れたところで待つようにする。それならいい?」

 無言で頷く智絵里を抱きしめたい衝動に駆られながら、恭介は喜びを噛み締めた。
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