熱く甘く溶かして

「ずっとあの子のことが心配だったの……でもあなたがついていてくれるなら安心だわ」
「いえ、そんな……。あの頃はいろいろありがとうございました。男友達なんて怪しい俺に、いつも良くしていただいて感謝してます」
「……そうねぇ。智絵里は昔から人見知りで、友達もたくさんはいなかったの。でも君を連れてきた時の智絵里がすごく楽しそうで、本当に仲が良いんだってわかったわ」
「あはは……なんか言い合いばっかりしてましたけどね」
「違うわよ、篠田くん。言い合えるってことは、本音でぶつかれてる証拠でしょ? そんな相手、智絵里にはいなかったのよ。君が初めてだった。だから前に言ったことがあるの。『篠田くんと付き合わないの?』って。そうしたら笑い飛ばされちゃったんだけど……今こうして二人が付き合ってるって聞いたら、すごく嬉しい気持ちになれたわ。本当にありがとう」

 智絵里の母親からそんな風に思われていたということが嬉しかった。

 その時ドアが開いて智絵里と女性警察官が出てきた。恭介と智絵里の母親は立ち上がると、彼女に駆け寄る。

 二人の姿を見て智絵里は驚いたような顔をした。

「二人とも来てたんだ」
「今ちょうど篠田くんとお話ししてたの。智絵里が幸せなら、お母さん嬉しい」
「紹介しなくても大丈夫だったのね」

 ずっと話していたのだろうか。智絵里に疲労の色が見えた。

「智絵里、大丈夫か?」
「うん、平気だよ。ありがとう。お母さん、《《あれ》》持ってきてくれた?」

 智絵里に言われ、母親は長椅子に置いてあった紙袋を手にすると、女性警察官に手渡した。

「わざわざありがとうございます。ではこちら預からせていただきます。お母様からもお話を伺いたいのですが、構わないでしょうか?」
「もちろんです。私がお話し出来ることであれば……」
「ではこちらに……」

 そして智絵里の母親は、先程まで智絵里が話をしていた部屋へと入っていった。
< 93 / 111 >

この作品をシェア

pagetop