熱く甘く溶かして
不安
 仕事を終えた智絵里は、タクシーで病院に向かっていた。

 一花から出産の連絡をもらってから三日。ようやく面会時間に間に合うように帰ることが出来た。恭介は飲み会のため、一人でどこかに行くのは久しぶりだった。

 病院に着くと、智絵里は少し緊張する。産婦人科には辛い記憶があったから。しかし気を取り直し、面会受付で名前を記入する。

 一花に教えてもらった病室に行く。部屋の中では一花、尚政、真祐、そして生まれたばかりの赤ちゃんが、智絵里を笑顔で迎えてくれた。

「一花〜! お疲れ様〜!」
「来てくれたの? ありがと〜!」
「先輩もおめでとうございます! とうとう二児のパパじゃないですか〜」
「ありがとう。俺ももっと頑張らないとだね!」

 智絵里は一花の横に置かれた透明なケースの中を覗き込む。中では小さな赤ちゃんが目を閉じて寝息をたてている。

「うわぁ……産まれたてだ……」
「さっきやっと寝たんだ〜。でもまた数時間後には泣き出すだろうけどね。新生児って久しぶりだから、少しずつ思い出してるところだよ」
「そっか……」

 その時、急にぐずり出した真祐を尚政が抱き上げる。
 
「一花、真ちゃんがジュースって言うから買ってきていい?」
「うん、小さいパックのにしてね」
「了解。じゃあ智絵里ちゃん、また後でね」

 病室に二人になると、静けさに包まれた。

「一花はすごいなぁ……ちゃんとお母さんだよね」
「そんなことないよ。いつまで経っても初めて尽くし。一人目は何もわからなくてあたふたしながら子育てしてたけど、今度は二人を同時に育てるっていう、またわからないことだらけの子育てが始まるしね」
「……ねぇ一花、お母さんになるってどういう感じ?」
「そうねぇ……ありきたりだけど、守るものべきものが増えたって感じかな。今この子が頼れるのは私たちだけだし、一番そばで心配して、守って、応援する存在でいたいなって思うよ」

 智絵里が赤ちゃんをぼんやりと眺める姿を見て、何かあったと一花は感じとる。そして左手の薬指に光る指輪を見つけて、驚きの声を上げる。
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