友達、時々 他人


「龍也! あきら!」

 店に入ると、陸に呼ばれた。

 正面、奥の座敷の襖が空いていて、首を伸ばした陸さんが見えた。

「なに、二人で来たのか?」

「いや、そこで会った」

 不本意ながら、嘘をついた。

 あきらは別々に行こうとしたが、俺は無理矢理に隣を歩いた。一緒に外を歩く機会(チャンス)なんてそうない。

 あきらの言う『セフレ』になってから、肩を並べて歩くことすら出来なくなった。

『友達なんだから、一緒に遊びに行くことがあってもいいだろ』と誘う俺に、あきらは冷たく言い放つ。

『ヤる前はそんなことしなかったじゃない』

 確かに。

 セフレになる前は、こうしてOLCの集まりで会うだけだった。

 俺とあきらは会費を千尋に渡して、空いている場所に座った。俺は陸さんの隣。あきらは千尋の隣。

「まずはビールでいいか?」と、陸さんが聞く。

「私、ウーロン茶で」と、さなえ。

「飲まないの?」と、あきらが聞いた。

「うん。大斗(だいと)が風邪気味で先に帰るかもしれなくて」

「最近寒いもんね」

「私もさっき、同じこと言った」と言って、千尋が笑った。

「んじゃ、ビール六つにウーロン茶一つな」

 陸さんが部屋から顔を出し、店員に注文した。開けておいた襖を閉める。

 店内が混みあってきて、乾杯から盛り上がる学生らしき若者の笑い声が響いた。

「大斗くんて保育園に行ってるんだっけ?」

 麻衣さんが聞いた。

「うん。毎日じゃないけどね」

「そんな、都合よく通えるの?」

「うん。無認可だから、融通が利くの。きっちり時間と日数を決めて通ってる人もいれば、週ごとに申請して通ってる人もいるの」

「へぇ」

 仕方がないとはいえ、子供の話になると過剰に反応してしまう。つい、あきらを見てしまった。

 あきらは顔色を変えずに話を聞いていた。

 俺が気にし過ぎているのはわかっている。

 けれど、どうしても思ってしまう。




 平気なように見えている『だけ』なのではないだろうか?



 きっと、考え過ぎ。

 あきらにとって『子供』の話が禁句(タブー)だと思っているのは、俺だけ。

 あきらは仕事上、子供と関わっているし、それを苦に感じているようでもない。むしろ、使命感に溢れている。

 放っておくと寝食をないがしろにして働く。休日も、俺が行って食事を作らなければ、一日に食パン一枚とカップ麺しか食べない時がある。

 あきらは決して、料理が出来ないわけではない。やろうとしないだけ。

 だから、やる気になるまで、俺が作っている。



 せめて『友達』の時は――。


< 11 / 151 >

この作品をシェア

pagetop