友達、時々 他人
13.葛藤
クリスマス前日。
私は二つの包みを前に、正座していた。
どうするよ、これ……。
部屋の壁に沿って並んでいるのは、段ボールの数々。
私は明日、引っ越しをする。
引っ越しをしようと思い立ったのには様々な理由があったが、最終的に決断に至ったのはひと月前に越してきた隣人だった。
「ああっ……ん! あっ!! そこっ!」
始まった――。
午後十時頃。
ほぼ毎晩と言っていい頻度で、聞こえ始める女の嬌声。
「あっ! ダメッ!! ダメダメッ!」
とにかくお盛んだ。
引っ越しの挨拶もないし、家を出る時間が違うらしくて顔を見たことは一度もない。
だから、私が知っているお隣さんについての情報は、お盛んだ、ということだけ。
住んでいるのが男性なのか女性なのか、二人なのかもわからない。
が、とにかくお盛んなのだ。
平日は夜十時頃から、休日は規則性なくおっ始める。
一週間ほど耳を塞いで耐えたが、八日目には不動産屋を訪ね、契約して帰ってアパートの管理会社に退去を告げた。
ちょっとずつ片付けを始め、明日の朝、今着ているパジャマや化粧品なんかをバッグに詰めたら、出て行ける。
けど、これ……。
龍也に買ったクリスマスプレゼント。
持って行くのも……、なぁ。
はぁ、とため息をつき、嬌声が続く壁に視線を向けた。
「いいっ! あっっ! そこそこ!!」
なんて大胆で素直な女性だろう。
私に、彼女の百分の一ほどの素直さがあれば、せめて勇伸さんと別れたことを伝えることが出来たのかもしれない。
そう。
私は勇伸さんと別れたことを龍也に伝えていない。
当然、私の気持ちも、引っ越すことも。
今更……。
細長い包みを、それより大きな包みの上にのせ、まとめて黒く光沢がかった紙袋に入れた。
仕方ない……。
まだ封をしていない段ボール蓋を開け、袋を横たえる。
それから、無意識にだがため息をつこうと大きく息を吸い込んだ。
ピーンポーン
思わず吸い込んだ息を止めた。
こんな時間にインターホンを鳴らす人間に心当たりがない。今は。
まさか……。
ゆっくりと立ち上がり、インターホンのモニターを見る。
やっぱり……。
龍也だ。
私は部屋を見回し、少し考えた。
玄関ドアを開ければ、どうしても段ボールが目に入る。
ピーンポーン
カーテンを閉めていても、外からは部屋の明かりがついているかくらいはわかる。
私は、ようやく息を吐いた。
玄関ドアの鍵を回し、ドアを開けた。顔半分ほど。
「よっ」
鼻の頭を赤くして、白い息を吐きながら、龍也が笑う。
龍也と会うのは忘年会以来だ。
「こんな時間にどうしたの?」
「来るの迷ってたら遅くなった」
龍也はじっと私の顔を見て、ダウンジャケットのポケットから細長い包みを取り出した。
「クリスマスプレゼント」
「え――?」
「明日のイヴは……彼氏と会うだろ? だから、今日のうちに渡したくて」