友達、時々 他人
14.彼女の本音



 自分でもかなりヤバい自覚はある。

 この五日、毎日あきらから貰ったマフラーをして仕事に行き、帰って来てもそれをボーッと見つめてみたり、くれた時のあきらの照れ臭そうな表情や、僅かに触れた唇の感触を思い出してはニヤニヤしている。

 立派に、変態の域だ。

『素敵な色のマフラーですね』と、褒めてくれたのは、同じ課の平山さん。

 一時、俺に気がある素振りを見せたことがあったが、会話の中で好きな女がいることを伝えたら、あっさり千堂課長に乗り換えてくれた。まぁ、結果的にはそっちも空振ったが。

 最近、彼女が恋人から貰った指輪を見せていたから、結婚が近いのかもしれない。それなりに仕事が出来る部下だから、少し残念だ。

 その平山さんが言っていた。

『彼女からのプレゼントですか? 女性が男性にマフラーやネクタイを贈るのは、独占欲の表れなんですよ? 男性が女性にネックレスやブレスレットを贈るのと同じで』

 男性が女性に贈るネックレスには、首輪、ブレスレットには、手錠、の意味があることは知っている。

『首輪、みたいな?』

『そうそう! 因みに、私はネクタイをプレゼントするんです。マフラーは冬限定だけど、ネクタイは年中してもらえるから』

『独占欲、強いんだ』

『普通ですよ』

 そんな会話をしたもんだから、余計に顔がニヤケてしまう。

 あきらはその意味を知っていてプレゼントしてくれたのだろうか。

 そうだと、いい。

 少なくとも、俺はそういうつもりでネックレスをプレゼントしたから。

『Akira.T』の刻印は、そのまま『谷あきら』を意味する。

 ずっと隠してきた独占欲を素直に表現すると、そうなった。



 つけては……くれないだろうけど。



 俺は深いため息をつき、低い天井を見上げた。



 恋人からは、何を貰ったんだろうな……。



 ぼんやりとスマホを見る。

 二日酔い、とまではいかないが、昨夜の仕事納めの飲み会では飲み過ぎた。

 今日から正月休み。



 あきら、どうしてんだろ……。



『おはよう。今日から休みだろ? 実家に帰るのか?』

 引っ越し先を知らない今、俺があきらと繋がれるのは、スマホの中だけ。

 十分待ち、次のメッセージを送ろうとして、もう少し待ってみる。

 十五分、二十分経っても既読にならない。

 しびれを切らして、次のメッセージを送る。

『おーい! まだ寝てる?』

 既読はにならない。

 段々、心配になってくる。

 あきらの職場もカレンダー通りの勤務のはずだから、今日から休みなのはまず間違いない。

 まだ寝ているのか、起きているがスマホを手元に置いていないのか。



 飲み過ぎて寝込んでる……とか、風邪ひいて寝込んでる……とか?



 メッセージでは埒が明かないから、電話してみようかとあきらの番号を表示し、ハッとした。



 彼氏といる……とか?


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