友達、時々 他人
9.素直なのは身体だけ
涙が止まらなかった。
自分から龍也に別れを告げたのに、着の身着のままで駆け付けてくれた彼の気持ちが嬉しかった。
『俺も子供が作れない身体だったら――』
そんなことまで言わせた自分が、情けなかった。
これは、罰だ。
龍也の優しさに甘えた、罰。
青ざめた顔で、微かに涙を浮かべて背を向けた龍也が、瞼の裏から消えない。
抱えきれない悲しみに、私は千尋の番号を呼び出していた。
誰かに、聞いて欲しかった。
誰かに、責めて欲しかった。
誰かに、慰めて欲しかった。
『あきら?』
「――っ、千尋……」
『どうした?』
隠そうと堪えても、どうしても声が震える。千尋はそれに気付いたと思う。
「龍也と……別れた」
『え?』
「友達に戻ろう、って言った」
『どうして急に――。ちゃんと話し合ったの?』
電話越しじゃ伝わるはずもないのに、私は首を振った。
『龍也はなんて?』
「恋人が出来たって……言った」
『は?』
「結婚も考えてる……って言った」
『嘘ついたの!?』
「嘘じゃない」
私は勇太と会ったこと、勇伸さんと会ったこと、勇伸さんと付き合うことにしたことを話した。千尋は相槌を打つだけで、黙って聞いていてくれた。
「勇伸さんが無精子症だって聞いて、もう子供を産めないことに卑屈にならずに済むって思って……」
『えっ!? マジで?』
勇伸さんが無精子症であることに、さすがに千尋が驚きの声を上げた。
『本当にいいの?』
「うん……」
『全然、良さそうな声じゃないけど?』
「……」
答えようがなかった。
龍也に別れを告げて、これだけ不安定になっているくせに、前を向いて大丈夫だと言い切れるはずがない。
『龍也はなんて?』
「ずっと私だけだった、って」
『え?』
「私とスルようになってから、他の女を抱いたことはなかったって」
『え――、マジ?』
最初は、本当に割り切った付き合いをしているつもりでいた。
勇太と別れて龍也とセックスするようになって半年くらいして、私は偶然再会した大学で同じ学部だった同級生と付き合うことにした。いつまでも勇太のことを引きずっていたくなかったし、龍也を縛り付けておくのも良くないと思ったから。
あの頃は、龍也との間にルールなんかなくて、単純にセフレのつもりだった。
私が、恋人が出来たと告げると、龍也は少し驚いて、それから少し寂しそうに笑って、『またな』と言った。
次に龍也と会ったのはひと月くらい後のOLCの飲み会。
私は恋人にお腹の傷のことを聞かれて、子宮を摘出したことを話した。すると、恋人は薄気味悪い笑みを浮かべて、『生でしていいってことだよな?』と聞いた。
私は硬くなった彼の股間を蹴り上げ、ホテルから逃げ出していた。
私が恋人と別れたと知り、龍也は飲み会の後で私の家に来た。