友達、時々 他人
10.波乱の忘年会



 街はクリスマスムード一色で、どこに行ってもクリスマスプレゼントやクリスマスケーキ、オードブルの広告が目についた。

 けれど、私の気持ちは鬱蒼としていた。

 昨夜は、広いお風呂に浸かって、広いベッドで眠った。広すぎるベッドは、勇伸さんと二人で寝ても触れ合うことがなく、互いに背を向けてしまえば、独りだった。



 こんな気持ちで龍也と会わなきゃいけないなんて……。



「千尋、隣来いよ」

 言っていた通り、陸さんが千尋を呼ぶ。

「今日はめっちゃ飲みたい気分なんだよ」と、陸さんがテンション高めに言った。

「付き合えよ」

「いいけど、高いんじゃないの? この店。のみほなんてあるの?」と、千尋。

「龍也の伝手で、安くしてもらえるんだと。特別にのみほ付きで」

「へぇ」

「久し振りに、高い酒が飲めるぞ?」

 今朝の勇伸さんは、昨夜の出来事が夢だったかのような平常運転で、二人で朝食を取り、別れた。

 私はため息をつくと、カップルだらけの駅前通りを足早に進んだ。

「ここ、か」

 龍也から送られてきた会場の名前と、店の看板を確認して、スマホをバッグにしまう。

 いつもの居酒屋と違って、随分と洒落たレストラン。

「いらっしゃいませ」

 ドアを開けると、ウェイターが颯爽と出迎え、深々と頭を下げた。年は、勇伸さんと同じくらいだろうか。

「桑畠様でしょうか?」

 名乗る前に、聞かれた。

「はい」

「お待ちしておりました。コートをお預かりいたします。ポケットに貴重品がないかご確認ください」

 コートを手渡すと、代わりに預かりのトランプを渡された。

 この会場は、龍也が決めた。

 別れを告げた日から数日後に、『この会場でいいか』とメッセージと店のHPのアドレスが届き、私は『OKです』と文字スタンプで返した。それに対する龍也の返事は、『お任せください』とお辞儀をする猫のスタンプだった。

 さらに数日後。

 時間を知らせるメッセージが届いただけで、私はそれにも同じスタンプで返した。

 龍也に会うのは、二週間振り。

 あの日の、泣きそうな、苦しそうな龍也の顔が忘れられない。

 私は大きく息を吸い込んで、ウェイターの後に続いて部屋に入った。

「来たか」

 言われた時間より十五分早かったから、龍也と二人かと思ったら、陸さんもいた。

 十二、三人くらい座れそうな円卓に、等間隔に皿やカトラリーが配置されている。

「あ、俺、今日は千尋と目一杯飲むつもりだから、あきらは龍也の隣な」

 椅子席なのだから、来た順に席を詰める必要はないと思うが、拒むのもおかしいなと言われた通りに龍也の隣に座った。

 麻衣が来たら、隣に座ってもらおう。さなえでもいい。そちらを向いていれば、龍也のことは気にしなくてすむくらいの、間隔はある。

 龍也と目が合ったが、すぐにドアがノックされて、逸れた。

 千尋と麻衣が、ウェイターに案内されて入って来た。

「よ」と、龍也。

「お疲れ!」

 麻衣が駆け寄って来て、私の隣に座った。
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