友達、時々 他人
2.OLC


「なぁ、いいだろ?」

 龍也の猫撫で声。

「ダメ!」

 私は容赦なく、言った。

「今日は帰って」

「冷てーの……」と、子供のように口を尖らせる。

 こういう時、私たちの関係を錯覚しそうになる。

「二次会は男女で別れるんだし、今日は自分の家に帰ってよ。酔って迂闊なこと言っても困るし」

「俺は困らないけど?」

「私は困る」

「どうして。付き合ってる、でいいだろ」

 前にも同じような会話をした。

 龍也は、やましいことをしているわけではないから、私とのことをみんなに言いたいと言う。

 私は、普通の恋人とは違うんだから、言いたくないと言う。

 結論は、出ない。

 解決も、しない。

「そもそも、付き合ってるわけじゃないでしょ? セフレって堂々と公表できるような関係?」

「俺はセフレだなんて思ってねーよ」

 龍也が私を大切に想ってくれているのは、わかっている。

 多分、仲間以上の感情。

 私も、龍也を他の仲間にはない感情を持っている。

 けれど、その感情はどうしても交わるものではなくて。

 たとえ龍也が望んでも、私には受け入れられない。

「ねぇ、龍也」

「わかったよ! 今日は帰る」

「――じゃなくて」

「やめないからな」

 私の言葉を遮って、龍也が言った。

「え?」

「どっちにも相手がいなきゃいいんだろ」

『もう、やめよう』

 以前(まえ)に私がそう言った時と同じことを、龍也が言った。

仲間(みんな)にも言わなきゃいいんだろ」

「龍也」

「セフレなら! ――いいんだろ」

 こんなことを言わせたいわけじゃない。

 そもそも、龍也はセックスだけの女なんて欲しがるタイプじゃない。

 セックスと愛はイコールだと思っている。

 私がそれを認めないだけ。

 龍也もわかっているから、決して口にしない。

 一度だけ、聞いたことがある。

『好きだよ……』

 眠る私の頬にキスを落とした龍也の言葉。

 嬉しかった。

 同時に、苦しかった。

 私では、龍也の夢を叶えてあげられないから。

「ほら、行こう」

 靴を履いて顔を上げた龍也は、いつもの笑顔。

 龍也の笑顔に、私は救われてきた。



 だけど……。



 私も靴を履き、一緒に玄関を出た。

 ゆっくりと、別離(わかれ)(とき)が近づいてきているのだと、感じた。
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