お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
それはそうだ。彼女は無邪気に推しを推し、無邪気に夫を一緒に楽しめるイベントに誘ってくれただけ。
俺が悪いのだ。推しが三次元になった途端、苛立ちを隠しきれなくなる心の狭い俺が!
しかし、どうしても心がざわめく。雫は可愛いのだ。美人なのだ。その声優に下心がないとどうして言える? デザイナーの鳥居という男だって、あきらかに下心で雫を誘ってきたじゃないか。
本当は雫を誰にも見せたくない。俺だけを見ていてほしいと思うことすらある。
仕事に推し活に一生懸命な雫にそんなことは言えないけれど。



「高晴さん」

二十時、改札を出たところで偶然雫と会った。昨晩のことで、一日すっきりしない気持ちでいた俺は、雫の顔を見て無理にでも笑顔を作った。

「雫、偶然だね」
「帰りが一緒になるのは珍しいよね」

雫が本社勤務になってから休みが合うようになったし、帰宅時間も以前より合う。だけど、こうして帰り道に会うのはあまりないことだ。

「お夕飯、カレーうどんでいいかな? 昨日作ったカレーをリメイクするの。お肉や野菜も追加するから」
「ああ、いいよ」

雫は可愛い。本当に可愛い。きっと俺は雫がおばあちゃんになっても可愛いと思い続けるのだろう。手袋をした手を取ると、雫が照れくさそうに笑う。

「手袋、取る?」
「いや、このままでいいよ。きみと手を繋いでいるっていうのが嬉しいから」
「もう、高晴さん、可愛いこと言うなあ」

可愛いのは雫だ。俺のことだけ見ていてくれればいいのにという気持ちが胸の奥で渦巻いている。
きっと本当は二次元の男だって許せないのだ。キャラクターであれ何であれ、雫の心を奪うものは許せない。今回、三次元の男を贔屓にしている雫を見て、そんな自分の狭量さを思い知ってしまった。

マンションに帰りつくと、玄関先で雫を抱き寄せた。靴も脱がないうちに抱擁され、雫が戸惑った声で「高晴さん」と呼ぶ。
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