お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
「た、高晴さんも」

抱っこしない?と目配せすれば、首を左右にぶんぶん振る高晴さん。

「なあに、遠慮してんのよ、榊。あんたもそのうちパパになるかもしれないでしょ。ほら、練習、練習」

日向さんがまたしても無造作に、私の手から高晴さんの腕の中へ赤ちゃんを移動させる。おとなしくされるがままの赤ちゃんと、緊張のあまり表情まで凍り付いた高晴さん。

「榊、もっと肩の力抜いて。脇も引いて。それじゃ抱っこにならないわよ」
「温もりが……」
「当たり前でしょ、生きてるんだから」

高晴さんがカチコチになって満足に抱っこできないうちに赤ちゃんの方が泣きだしてしまった。抱っこタイム終了。キッチンから哺乳瓶入りのミルクを持った日向さんの旦那さんが登場。
赤ちゃんはミルクをもらい、ようやく泣き止んだ。知らない大人を接待してくれてありがとうね、ベビーちゃん。安堵したのか、高晴さんもようやく深い息をついたのだった。
高晴さんの緊張が私にまで伝わってきたよ。マニュアル人間だから、感覚でやることが苦手なんだろうな。赤ちゃんの抱っこまで、こんなにカチコチでロボットみたいになるとは。ロボ晴さん、ちょっと可愛かったけどね。


日向さん一家に見送られ、私たちは帰宅の途につく。季節は晩秋。街路樹の葉は落ち、日暮れは早い。
私たちがお見合いをして、もう少しで一年が経つ。

「赤ちゃん可愛かったね」

横を歩く高晴さんを見上げる。高晴さんは大真面目な顔で答える。

「責任重大過ぎて、抱っこは緊張したよ」
「うん、それは見ててわかった」

でも、私は未来へ向けての練習ができたと思っている。来週、千夏ちゃんの赤ちゃんも見に行くし、千夏ちゃんさえよければ抱っこさせてもらおう。

「日向が母親の顔になっていて、驚いた。彼女は良くも悪くも自己中心的というか、強引なところがある女性なんだけど、今日は徹頭徹尾赤ちゃん優先だった。表情も柔らかかったし」
「ママになると女性って変わるんだね」
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