秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「だから千香は、決して逃げ出したんじゃない。ずっと手を尽くして、するべき責任を果たしたうえで見限ったんだ」

 繰り返された言葉を、ゆっくりと嚙みしめる。
 これまで、身内から目に見える虐待を受けてきたわけではない。逆に、金銭的には恵まれた生活をさせてもらってきたと自覚している。
 それなりの恩を感じていたからこそ、期待を裏切りたくなかった。

 それに、必死で居場所を作っていないと途端に佐々木家から弾き出されてしまいそうで、怖かった。

 あの狭い世界が私のすべてだ。そう信じ込んでいたにすぎなかったと、今ならわかる。

 大雅は詳しい事情など知らないはずなのに、いろいろと私の意を汲んで慰めてくれているのだろう。
 アルコールのせいもあるのか、気持ちの浮き沈みがいつもより大きく感じる。彼の言葉を受け入れるのは心地よい。

「たとえ家族とはいえ、これ以上千香になにかを求める権利なんてありはしない。そう、弁護士である俺が断言しよう」

〝弁護士である〟だなんて堂々と言ってみせたけど、中身はめちゃくちゃだ。
 しんみりしかけたところで、最後は茶化すように宣言した大雅がおかしくて吹き出せば、つられるように彼も笑った。

「ありがとう。弁護士先生がそう言うんだから、絶対に間違いないね」

 私も同じように軽い調子で返す。
 自分の抱えていたものを吐き出したせいか、気が抜けて砕けた雰囲気になっていく。
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