秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「俺は千香の夫になりたいし、陽太の父親になりたい」

 その言葉に、一年半もの長い間、彼が父親として過ごす時間を奪ったのは私なのだと後悔の念が押し寄せてくる。

 それでもまだ迷いを見せる私に、大雅が追い込みをかけてくる。

「千香が俺の気持ちを信じてくれるよう、口説くチャンスがほしい」

「口説く、チャンス?」

 意味が分からず、オウム返しになってしまう。

「そう。俺と結婚してもいいって思ってもらえるよう、頑張らせてほしい。それから千香の実家に関しても、全力でふたりを守ると約束する。絶対に思い通りになんかさせない。だから、お願いだ。俺にチャンスをくれないか?」

 そんなふうに懇願されるが、決して大雅に落ち度があるわけじゃない。
 それに、父親は大雅だと私が認めたのだから、彼がさっき言ったように陽太に対していろいろと主張できる立場にある。

 それでもこうして下手に出てくるところに、彼の優しさと本気なのが伝わってくるから断れなくなる。

「どうやって?」

 口説くなんて言われて、緊張に声が掠れる。

「とりあえず、ふたりの生活はすでにここで築いているからそれは乱したくない。かといって、離れていては口説く以前の問題になる。だから、しばらく一緒に暮らす許可がほしい」

「この狭いアパートで?」

 きっとそれなりに高い水準の暮らしをしていそうな彼にしたら、さすがにここで寝泊まりするのは不便だろうし苦痛に感じそうだ。

「そう。一分一秒も無駄にしないで、少しでも一緒にいたいんだ。俺には後がないんだから、チャンスは逃したくない」

 懇願するように、どこまでも下手に出る大雅に目を見張る。

「お願いだ、千香。君を愛しているんだ。もちろん、陽太も」

 大雅は再び陽太をぎゅっと抱きしめながら、私に縋りつくような視線を向けてくる。ここで彼を拒めば、罪悪感が芽生えてしまいそうだ。

「……わかった。ここでかまわないのなら、受け入れるわ」

「よかった」

 安堵する表情を見せた大雅にわずかな不安を感じながら、少しだけ心が弾んだ。
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