秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 まずはスマホを買い替えようと、身支度を整えて外へ出る。
 真夏のギラギラとした日差しと行き交うたくさんの人を避けながら、事前に調べておいたショップに向かう。

 手続きは意外と早く済んだ。これまでの私なら決して選ばないような真っ赤な色のスマホに満足すると、次はどこへ行こうかと思案しながら足取り軽く進む。

 広島にいる頃は、『常に人の目を意識して、節度ある暮らしを心掛けなさい』と祖母に言われ続け、貞淑であるようにと求められてきた。だから、こんなふうに街に出て人目もはばからず自由に過ごす機会もなければ、恋人を作ってデートを楽しむ経験もできなかった。
 まるでがんじがらめにされたような生活だったと、少し離れただけでよくわかる。

 通りすがりのショーウィンドウ越しに、オシャレな服を見つけて衝動的に店内に飛び込んだ。
 小花柄が華やかな、ひざ丈のフレンチ袖のワンピースがまさしく私好みで、しばらく目が離せなくなる。
 いつもは無地でシックなデザインのものばかりを選んでいた。今日だって、オフホワイトのサマーニットにネイビーのスカートという地味な装いだ。
 
 もう誰の目も気にしなくていいのなら、自分の好きなものを選びたい。
 少々値段は張ったが思い切って購入すると、その場で着替えさせてもらって再び外に繰り出した

 祖母が亡くなったばかりで不謹慎だとわかっていても、こうしている今が楽しくて仕方がない。
 そんな浮かれた気分でいると、あっという間に時間が経ってしまう。
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