心霊部へようこそ!
【前世の名前】

 トッテさんがわたしの家に来て、一週間がたった。
 わたしの日常にとくに異変はなく、今のところ平和な学校生活を送れている。
 トッテさんの音も、ほんの少しだけ気にならなくなりはじめた、かな?
 そんな様子の報告に、昼休みや放課後に何度か心霊部にも顔を出した。
 部室にはいつも晴人センパイがひとりでたたずんでいる。
「センパイ。心霊部ってセンパイしか部員がいないんですか?」
「いや、あとふたりいる。ユーレイ部員だけどな」
 心霊部のユーレイ部員って……それちょっと怖いんですけど。
 そう思いつつ、わたしは時々心霊部に通うようになっていた。

「月城さん、ちょっと良いかな?」
 ある日、わたしが昼休みに自分の席でお弁当を食べていると、えんりょがちに声をかけられた。顔をあげると、同じクラスの石渡是治(いしわた これはる)君がいた。
「石渡君、どうかしたの?」
「少し相談したいことがあって」
「相談? わたしに?」
「うん、月城さんと同じ小学校だったひとに、月城さんは取りつかれやすい体質だって聞いて。それで聞いてみたいことがあるんだ」
 あちゃー、わたしの取りつかれ体質、すっかり有名になっちゃってる。
 でも、わたしに相談されてもこまる。何か力になれるだろうか。場合によっては晴人センパイにお話した方が良いかもしれない。
「わたしはたしかに取りつかれやすい体質だけど、おはらいとかは出来ないよ?」
「それでもいいんだ。というか、これが心霊現象なのかも自分ではわからなくって」
「じゃあ、わたしでよければ話だけでも」
 うなずくと、石渡君は空いていたとなりの席のイスを借りてすわった。
 何度か言いにくそうに口元をへの字にしたあと、しぼりだすように言葉を出す。
「あのさ、オレ、特になにもないのになぜか死にたくなっちゃうことが多くって」
「えっ、し、死にっ!?」
 いきなり重い話!? わたしはビックリして混乱してしまう。
「でも、家族とは仲が良いし学校も楽しい。シュミだってあるんだ。自分でも、死にたくなってしまう理由がまったくわからないんだ」
「理由がないのに、そうなっちゃうの?」
「うん。ただ、夢を見るんだ。こっちに来いってすごく怖いところへオレを引っ張るような夢。色々考えたんだけど、多分その夢が何かいけないんだと思うんだ。けど、夢なんてどうしたらいいか……」
 言葉につまって、石渡君が下を向いた。
 夢に出るオバケ、またはユーレイ。取りつかれやすいわたしでもその経験はない。
「ううん、わたしも夢に関してユーレイが出てきたことはないなぁ。むしろ、ユーレイとかオバケがいやでお昼寝しちゃうことがあるくらい」
「そっか、月城さんでも経験のないことか……」
 ガックリとうなだれてしまった石渡君を見て、わたしは言った。
「ねぇ、放課後一緒に心霊部に行ってみない? わたしのセンパイで、神社に生まれて色々教わっている人がいるの。そのセンパイだったら何かわかるかも」
「いいの!? もし良かったら、ぜひお願いしたいな」
「うん、じゃあ放課後に心霊部に行きましょう」
 石渡君がお礼を言って席に戻っていく。その背中をじっと見つめてみたけど、やはりわたしには何もわからない。ただ、長年ユーレイに困らされてきたわたしのカンが、なんだか嫌な空気を感じとった。

 放課後、わたしは石渡君を連れて心霊部に向かった。
 部室では今日も晴人センパイがひとりで本を読んでいる。わたしが人を連れてきたことにちょっと首をかしげたけれど、すぐに向かいのイスをふたつ引いてくれた。
「晴人センパイ、急に押しかけちゃってスイマセン!」
「灯里が来るのはいつものことだろう。それより、今日連れてきたひとは?」
「内藤(ないとう)晴人センパイですよね、はじめまして! 一年の石渡是治と申します」
 石渡君がていねいに頭を下げてあいさつすると、センパイも「二年の内藤晴人だ、よろしく」と笑顔でおうじた。むぅ、わたしにはあんな笑顔向けないくせにー。
「それで石渡君、今日ここにきたのは何かあってのことかな?」
 顔色で察したのか、はたまた何か霊気のようなものでも感じたのか、晴人センパイはさすがに察しが良かった。
 石渡君がわたしに話したことを、そのまま晴人センパイにも伝える。
 うなずきながら聞いていた晴人センパイが、符を目のそばに当てて石渡君をじっと見る。
 そして、ふいにスマートフォンを取り出した。
「なるほど、話はわかった。キミからはオレも何かを感じる。見えたものもあるけど、ハッキリしない。ちょっと正体まではつかめない感じなんだ。だから助っ人を呼んでもいいかい?」
「はい、もちろんですが……なんだかごめいわくおかけしてしまって」
「いいんだよ、そのための心霊部だからね」
 わたしは、スマートフォンの画面を操作している晴人センパイにたずねた。
「センパイ、助っ人って?」
「前に言っただろ、ユーレイ部員がいるって。そのうちのひとりを呼ぶ」
 ひぇぇ、心霊部のユーレイ部員の登場かぁ……。どんなひとかなぁ、怖くないといいな。
 ちょっとの間、わたしたちは無言のまますわっていた。すると、晴人センパイのスマートフォンがピコンとなった。画面を見た晴人センパイが、ふぅと息をつく。
「良かった、まだ学校にいたみたいだ。すぐに来るってさ」
 画面から顔をあげた晴人センパイが、石渡君を見て言う。
「ユーレイ部員が来るまでの間に話しておこうか。悪夢はね、バクに捧げると良い」
「バク……? なんですか、それ?」
「中国から伝わって来た伝説の生き物・幻獣だよ。一説には鼻はゾウ、目はサイ、尾はウシ、脚はトラで出来ていて、神様が生き物を作ったときに余りもので作りだしたとも言われるんだけどね」
「なんだか、すごい生き物ですね」
「このバクはね、ひとの夢を食べるんだ。だから、悪夢を見たときに『この夢をバクにささげます』と祈ると同じ悪夢は見ないと言われているんだ。まぁ、ウワサ話とかオカルトの延長だと思って、頭の片スミにでも置いておいてくれ。それに、石渡君の症状はこの夢を消したところで良くなるとも思えないしね」
 晴人センパイがめずらしくおしゃべりだ。それにしても、センパイは色々くわしいなぁ。
 石渡君といっしょにうなずいていると、おもむろに心霊部のドアが開いた。そして、奥からメイクの濃い女の子が入って来る。
「よーぅ、晴人! 来たよー!」
「ああ、雪乃。わざわざ呼んですまないな。紹介しよう、こいつが心霊部のユーレイ部員のひとり、三島雪乃(みしま ゆきの)、オレと同じ二年生だ。雪乃、こっちは一年の月城灯里と石渡是治君だ」
 晴人センパイが手早く紹介をすませていく。
 わたしは雪乃と呼ばれたひとをじっと見る。メイクばっちりの顔はとっても整っていて、肌が白くて目が大きい。ちっちゃな鼻に小ぶりの唇。かわいらしいひとで年上には見えなかった。
「月城灯里です、よろしくお願いします」
「石渡是治です、どうぞよろしくお願いします!」
 わたしたちがあいさつすると、雪乃さんははじけるような笑顔で応えた。
「よーっす、コウハイ君たち! 灯里ちゃんに是治っちね。雪乃だよ、よろよろー!」
 うわぁ、雪乃さん元気いっぱいだ。
 雪乃さんは晴人センパイのとなりにすわると、その肩を指でつんつんと突いた。
「で、あたしが呼ばれたってことはさぁ、アレをやるワケ?」
「そうだ。石渡君に何かがついている、それを探りたい。オレは深刻な問題だと思うから、手伝ってくれると助かる」
「オッケー、ひと助けになるならやったろうじゃん。任せておいて」
 そういうと、雪乃さんはカバンからネックレスを取り出した。でも、何か変。水晶があしらってあるネックレスなんだけど、その水晶の向きがおかしい気がする。
「あの、雪乃さん。そのネックレスの水晶、逆さまじゃないですか?」
 わたしが聞くと、ネックレスをつけながら雪乃さんが笑った。
「ふふっ、いいとこに気が付いたねー、灯里ちゃん。でもね、これはこの形で良いの」
「逆さまでいい?」
 とまどっているわたしに、晴人センパイが言った。
「あれは雪乃が逆水晶と呼んでいるものだ。水晶は本来、魔除けに使われている」
「それを逆にするってことは……魔寄せになっちゃいません?」
「えへへ、正解! そういうこと。じゃあ、やりますかー! 席変えて!」
 雪乃さんが言うと、晴人センパイが立ち上がり石渡君に向こうにすわるようにうながした。晴人センパイがわたしのとなりに、石渡君が雪乃さんのとなりにすわりなおす。
「センパイ、これどういうことなんですか?」
「雪乃はな、言うなればユーレイ寄せ体質なんだ」
「ユーレイ寄せ?」
「そうだ。灯里が取りつかれ体質なら、雪乃は取りつかせ体質だ。イタコを知っているか?」
 晴人センパイの問いに、わたしはちょっと考える。聞いたことあるけど、ええと……。
「死んでしまったひとを呼び寄せるひと、ですよね?」
 わたしの代わりに、石渡君が遠慮がちに言う。
「そう。雪乃は生まれつきの取りつかせ体質、イタコの素質をもっているんだ」
「そして、あたしが付けたこの逆水晶が、魔寄せの力でそれをサポートしてくれるの」
「なるほど。でも、それをどう使うんですかセンパイ?」
「オレは石渡君についているものはしぶとい霊だと見た。ちょっと追い払ったところでどうにもならないようなやつだ。だから雪乃に引き寄せてもらって、その正体と目的を探る。いわゆる降霊というやつだ」
 降霊。霊を、降ろす。そんなことが可能なのだろうか。
「それって、なんだか危なくないですか!?」
「ああ、だから雪乃には心霊部員がいるときにしかこの儀式はしないように言ってある。何かあったときはオレが符で霊を雪乃から追い出すんだ」
「そうそう、あたしの顔にキズがつかないようにしっかり守ってよねー、晴人!」
 ニッコリ笑った雪乃さんがそう言うと、石渡君の肩に手を伸ばす。
 石渡君がびっくりしてとまどったが、雪乃さんはおかまいなしだ。
「はい、じっとしててね石渡君。これからあなたに取りついている霊を、あたしの身体に移すからね。いくよ……」
 雪乃さんが真顔になる。深呼吸を一回、二回、三回。
 四回目に大きく息を吸ったとき、あたりの空気が雪乃さんに引き寄せられるようにゆれた。
「はじまったぞ」
 風に揺れる髪をおさえていると、晴人センパイが言った。
 雪乃さんは数度頭を左右に動かしたあと、かくんと首を下ろすようにしてうつむいた。
 その頭上に、ゆっくりともやのようなものが集まって形を作っていく。
「鬼? いや、悪霊? これは……」
 もやが形になって、色付きはじめる。
 雪乃さんの頭上にあらわれたそれは、真っ赤な顔をして、鋭い目を持っていた。口は耳元までさけて、牙がむき出しになっている。頭には何本もの角。その大きな口からこぉぉ、こぉぉ……と深い呼吸をしていた。
 身体中も真っ赤で、晴人センパイが言ったようにその姿はまるで鬼のようだった。
「きゃあ!」
「うわっ!?」
 突然あらわれた鬼のような何かに、わたしと石渡君がおどろいて声をあげる。
 晴人センパイが符を取り出し、雪乃さんの頭上に語りかけた。
「あなたが何者かは知らないが、なぜ彼を死にいざなう?」
 センパイの問いに、鬼は黄色い大きな目を赤く血走らせながら重い声で応えた。
『死なねばならぬ……われは死なねばならぬ……大罪……許されない……死なねば……』
「大罪? あなたが死なねばならぬことが、なぜ彼を死においやることになる?」
『死なねばならぬ……是治は死なねばならぬ……罪。罪罪罪罪罪……死なねば……』
 是治は死なねばならない。罪。どういうことだろう?
 疑問に思ったけれど、わたしは恐ろしくて口を開けない。石渡君もふるえていた。
 晴人センパイは、鋭い目でじっと鬼を見つめている。
「是治は死なねばならない、だと。あなたの名は是治と言うのか?」
『そうだ。われは、是治、是治は……死なねばならぬ……死なねば許されぬ、死んでも許されぬ。しかしそれしかない、死しかない……。死、死死死死死……』
 鬼が死を口にするたびに、部室の温度が下がっていくように寒気を感じた。
 わたしは寒さと怖さで、身体がガクガクとこきざみに動くのを止めることができない。
「この鬼の名は、是治……石渡君と同じ名前……それで、か。もう時間だな」
 晴人センパイが立ち上がり、雪乃さんのそばに立った。
 符を持った手を雪乃さんに近づけていく。
「御霊の力を拡散せん! 急急如律令! はっ!」
 雪乃さんの頭を持ち上げるようにして、そのひたいに符を当てる。
 すると鬼の姿が少しずつうすくなっていって、今度は雪乃さんの身体から風がふいた。
 しばらく符を当てられていた雪乃さんが、ゆっくりと目を開いた。
「はぁ~、つっかれたー。なんとなくだけど、わかったよー!」
「こっちもなんとなく察しはついた。おつかれ、雪乃」
 重苦しい空気が消え、寒さもやわらいで来た。雪乃さんも元にもどり、わたしはホッと息をついた。石渡君も真っ青にしていた顔色が、少しずつもどりはじめていた。
「えっと、じゃああたしのわかったことから言うね」
 ふぅ~、と息を吐いた雪乃さんが、ネックレスを外しながら言う。
「あたしが宿したのは、石渡君の祖先かまたは前世のひとって感じかな」
「オレの祖先か前世……ですか?」
「うん。そのひとがね、なんだかとっても悪いことをしたみたいなの。神様に逆らうようなこと。死んじゃったひとをよみがえらせる? 反魂? そういう儀式をしたの」
 乱れた髪を整えながら、雪乃さんが続ける。
「でも、それが失敗におわって、家族やよみがえらせようとしたひとがとっても不幸な目にあってしまったみたい。それを後悔していて、罪の意識でおかしくなっちゃった。死んじゃっても罪の思いが重なり続けて、あんな風になってしまったのかなー」
「だけど、なんで石渡君がそんなひとに取りつかれているんですか?」
 わたしの言葉に、晴人センパイが答える。
「さっき、あの鬼……いやひとか。あのひとはわれは是治と言った。罪を犯したあの怨念の名は、是治と言うのだろう。そして、石渡君の名前も是治。おそらくは漢字も同じなのだろうな。それで前世の罪の意識が、石渡君にまで乗り移ってしまったんだ」
「そんな理由で、オレは死にたいという思いにとらわれて……」
 うなだれる石渡君。罪の意識、犯したあやまち……。
 そんなものが、ひとをあんな鬼みたいに変えてしまうなんて。
 思い出すだけでもゾッとする、あの姿――。その罪の思いはどれほどなのだろう。
「あの! それでこれからどうするんですか? あの鬼みたいなのをはらうんですか?」
 晴人センパイが、わたしの言葉に力なく首をふった。
「一度はらったところでどうにもならない。業が、前世の悪行が深すぎる。あの霊は何度はらっても名前に引き寄せられて石渡君のもとに戻ってきてしまうだろう」
「そんな!? それじゃオレはどうすれば!?」
「名前を変えるしかない。読みは同じでもいいが、漢字まで当てはまるのはマズイ。といっても、それはすぐにできることじゃないだろう。まずは自分の名前を漢字ではなく、カタカナかひらがなで書くようにするんだ。少しでも、あの名と距離をとらなくてはならない」
「名前を、変える……」
 頭を抱えた石渡君の手に、雪乃さんがそっと手を重ねた。
「あとね、気持ちを強く持って。弱気になっちゃダメだよ」
「でも、こんな呪いで弱気になるな、なんて無茶です」
「悪い霊はね、弱った気持ちにつけこんでくるの。だから、気持ちを強くもって。しっかりとした意思の中には、悪霊は入りにくいの。むずかしいだろうけど、前向きにね」
「……はい、やってみます」
 雪乃さんはさっきまでのおちゃらけた雰囲気はなく、やさしげな口調でさとすように言った。石渡君はうなだれつつも数度うなずく。
「どうしてもつらかったら、またおいで? きっと晴人が悪霊をはらってくれる。すぐ戻ってきてしまうかもだけどさ。一時でも解放されることはあるから。それで、いつかお父さんとお母さんを説得して、名前の漢字を変えたらいいよ」
「はい、はい……そうします」
 雪乃さんの言葉に応えるように、晴人センパイが一枚の札を石渡君に差し出した。
「魔除けの札だ。きっとこれが石渡君を守ってくれる。完全にすくわれなくても、今までよりはずっと楽になるはずだ。持って行ってくれ」
「いいんですか? あの、そういうのって、高価なものじゃないんですか?」
 とまどう石渡君に無理やりお札をにぎらせて、晴人センパイが笑顔をうかべた。
「オレはまだ修行中だからね、気にしないでいい。それと、雪乃も言ったがどうしようもなくなったらいつでもここに来るといい。オレがなんとかしてみよう。石渡君、キミはひとりじゃない。それを忘れないでくれ」
「ありがとう、ございます」
 涙声で言った石渡君が、お札を受け取った。
 ああ、すごいな。晴人センパイも雪乃さんも。あんな怖い存在から、ひとを守ってあげることができるんだ。わたしも、ああいう風になれたらな――。
 三人を見つめながら、わたしはそんなことを考えていた。

 翌日、わたしは昼休みにふたたび心霊部をおとずれた。
 部室ではいつものように晴人センパイがひとりで本を読んでいた。
「晴人センパイ! お話があります!」
「なんだ灯里、そんなにいきおい込んで」
 不思議そうに顔をあげた晴人センパイをじっと見て、わたしは一枚の紙を差し出した。
「これ! 受け取ってください!」
「なんだこれ……入部届け?」
「はい! わたし、心霊部に入りたいんです。心霊部に入っていっぱいお勉強して、いつかセンパイや雪乃さんみたいに霊で困っているひとを助けられるようになりたいんです!」
 わたしが昨日一晩考えたこと。
 それは、わたしもセンパイたちのようにだれかを助けられる人間になれないか、ということだった。もちろん、わたしは生まれながらの取りつかれ体質。助けられてばかりで、できることなんてないかもしれない。
 でも、石渡君のときに感じたこと――ずっと取りつかれ体質だったわたしだから感じられる、カンのようなものもあるんじゃないかって思った。それを、心霊部で少しでも役立てられたら――そう考えたから。
「どういう気持ちの変化か知らないが……まぁ、いい。オレの目のとどくところに灯里がいれば、少しでも取りつかれることもへるかもしれないしな」
 そう言って、センパイは笑って入部届けを受け取ってくれた。
 今日からわたしも心霊部なんだ。気持ちを引きしめて、やっていかなくちゃ!
「はい、がんばります!」
 はり切って言うわたしを、晴人センパイが呆れた笑みで見つめていた。

 石渡君はどうしたかと言うと――。
 雪乃さんが降霊をしてから一週間後、石渡君がわたしに話しかけてきた。
「月城さん、先週はありがとう」
「そんな! わたしはただセンパイたちのところに連れて行っただけで、何もできてないよ」
「でも、月城さんがいなければ内藤さんにも三島さんにも会えなかったし、感謝してる」
 そう言った石渡君の顔色は、相談を持ちかけてきた時より明るく見えた。
「それで、あの後調子はどう?」
「うん、お札のおかげかな。少し楽になったよ。三島さんに言われたように気持ちを強く持つようにしてる。それと、図書館やインターネットで色々調べてみているんだ」
「調べるって、何を?」
「オレの前世のこと。祖先のこと。何かわかれば、親に名前を変える説得の材料になるかもしれないなって思って」
 石渡君は、目下自分の一族の過去を調べているのだと言う。
 ああ、ホントに気持ちを強く持っているんだな。わたしは石渡君を尊敬した。
 あんな怖い鬼みたいな霊に取りつかれながらも、一生けんめいがんばっているんだ。
「でもね」
 そう言って、石渡君がお札を取り出した。
 そのお札は――まるで何年も使っていたかのように色あせて、ボロボロになっていた。
「近いうちに、また内藤さんにお札を作ってもらわなきゃかな」

 前世から続く業――悪行の深さと、死へといざなう執念。
 それは未だに石渡君をむしばみ続けているのだ。
 今にもちぎれてしまいそうなお札を見て、わたしはその恐ろしさに身をふるわせた。
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