あなたの落とした願いごと
そう確信した私の視界が、瞬く間にぼやけていくのが分かった。


「全く、この班はこういうときにまとまりがないから困るんだよな。特に空良なんて一目散に走って行ったし…って、どうした?」


行き先の階数を押して”閉”のボタンを押した滝口君が私の方を見たのか、戸惑いの声が聞こえた。


「お前、何かあった?」


そう聞きたくなるのも分かる、だって私は今、


「…ううん、」


下を向いたまま、必死に流れ落ちる涙を拭っているのだから。



ああどうしよう、安心したら目から雨が止まらないよ。


今の滝口君はどんな顔をしているんだろう、迷惑がっているかな。


でも、聞き慣れた低い声が隣から聞こえる事に、こんなにも喜びと温もりを感じたのは初めてで。



「けど、迷子になったみたいで怖かった…」


しゃくり上げながらそう言えば、上から小さな吐息が漏れたのが分かった。


「…怖かったって、子供じゃないんだし。次お前とはぐれたら、俺迷子センター行かなきゃじゃん」


まさにその通り、彼の言葉は正論そのもの。


何か言いたいのに涙が邪魔をして言葉が出ない。


彼からしてみれば、私の置かれていた状況は迷子とは程遠いはず。


たかがあんな事で泣くなんておかしいと分かっているはずなのに。


「ほら、もう大丈夫だから泣き止め。俺が泣かせたみたいになると困るから」
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