あなたの落とした願いごと
『ほら、もう大丈夫だから泣き止め』



頭上から聞こえてきたあの優しい声が再び私の頭を駆け巡り、


「ああぁっー…!」


私は自分の枕を抱きかかえ、ぶんぶんと首を振った。


全てにおいて興味がない滝口君の事だから、スキンシップが出来る程のコミュニケーション能力を持ち合わせていないと勝手に思っていたけれど。


同情が100%を占めている事は重々承知していても、何せ相手が学年一の人気者だ。


この気持ちはなんと表現したら良いんだろう、誰に吐き出せば良いんだろう。


誰も私達の間で起こった出来事を見ていないわけだし、言うなればこれは私と滝口君の秘密なわけで。


「待って待って落ち着いて私、」


あの時、彼はどんな表情で私の事を見ていたんだろう。


何を思って、私の頭を撫でたんだろう。


辿り着けない応えに向かって考えを巡らせれば巡らせる程、心臓の鼓動がやたらと大きく聞こえて頬が火照っていくのが分かる。


「えっ、…身体、めちゃくちゃ熱いんですけど…」


枕に顔を押しつけていた私は、ふと我に返って自分の身体を抱きしめた。


ずっと滝口君の事を考えていたからか、私の身体は再度お風呂に入った方が良いと思えるくらいに熱くなっていて。


パニックを起こしたときとは明らかに違うこの胸の高鳴りは、一体なんだろう。
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