あなたの落とした願いごと

終わりの始まり

「この間中間試験終わったばっかなのに、何でもう期末試験1週間前なのかな?時間感覚バグってるんじゃないの?」



いつの間にか梅雨入り宣言がされた6月中旬。


放課後、しとしと降る雨の勢いに負けない勢いで叫んで手で頭を抱えたのは空良君。


「バグってんのはお前の頭だろ」


「駄目だよ神葉君、正論言ったら空良が傷付いちゃう」


そんな彼の後ろから矢のように鋭い言葉を浴びせたのは滝口君で、追い討ちをかけるようにエナが会話に加わった。


この光景は、クラス替えが行われた4月から何度も見てきたもの。


ボケる空良君に突っ込みを入れるのは滝口君とエナ、笑いながら彼らを眺めているのは私。


この構図は何にも変わっていない。


ただ少し変わったものと言えば、


「ミナミ、お前は今度こそ赤点取らねえよな?」


「そ、そりゃあもちろん!まあ、まだ勉強してないけど…」


何故か、滝口君が私に話し掛けてくれる頻度が高くなった事と、


(お願いだから落ち着いて、私の心臓…!)


彼の低い声を聞く度に常軌を逸したスピードで高鳴る、私の心臓の鼓動。



南山大江戸町での一件以来、私はあの日抱いた自分の感情に気付かなかったふりをして日々を過ごしてきた。


滝口君はただの友達で、良く言ったとしても“気になる人”。


完璧人間の彼を友達呼び出来るだけでも光栄なのに、これ以上図々しい態度をとってはいけない。
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