君が望むなら…
サラサラとした焦げ茶色の髪、瞳。
穏やかな声色と優しげな顔。
スラリと伸びた背。

こんな彼は誰からも好かれている好青年だった。

対して私は、背はそれほど高くなく、痩せっぽちでスタイルもいいとは言えない。

両親とは意見も考えも違い、折り合いは悪かった。
強がりばかりで可愛げもなく、他人に対して慎重と言えば聞こえは良いけれど、要するに警戒心の強い性格。

幼い頃はよく反発して無茶をし、『じゃじゃ馬』だと言われていた。

彼とは正反対、そして、彼の好みともかけ離れている…


『…お聞きになった?カイト様は本当は、あの穏やかなニーナ嬢との婚約を望んでいたそうよ…』

『…本当にお気の毒に…相手があの、気の強いアネア嬢だなんて、なんと釣り合わない…』

噂のニーナは良家の娘で、私の夫となったカイトと同じく、慎ましく穏やかで細やかな気の利く女性。

結婚が彼とニーナ嬢なら、なんて似合いの相手同士だっただろう。

ニーナ嬢と比べられ、劣等感を背負わされながら求められもしない彼と夜をともにするなんて、苦痛以外の何物でもない。

惨めな私は彼のもとにいる死ぬまでの間、それを押し殺して生きるしかないのだろう。

分けられた部屋の隅のベッドで、私は泣きたいのをこらえながら眠った。


「アネア、夫婦なんだ。一緒に朝の食事でも…」

朝の支度を終えた私に、彼は穏やかにそう誘う。
しかし私は、

「…結構です。貴方には貴方の時間があるのですから、私の事はお気に留めずどうぞ…。貴方は忙しい、このお屋敷の主人なのですから。」

そう言って深々と彼に頭を下げた。

「…ありがとう、アネア…」

彼はそう返しまだ何か言いたげに私を見つめていたけれど、そのまま静かに部屋を出ていった。
< 2 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop