楽園 ~きみのいる場所~
8.目撃
「これ、この前言ってたプレゼント」
そう言って、間――悠久くんが深紅の箱を差し出した。
指輪が入っている箱のようなベルベット生地だが、指輪より大きなものが入っていることがわかる。
私は彼の手から箱を受け取り、蓋を押し上げた。
「これ……」
ヘアクリップだった。髪を挟んで、先端部分を引っ掛けて固定するタイプの物。
バナナクリップ……って言ったっけ?
バナナと言っても、シルバーのそれは天使の羽のような形と、胴体部分にそれを思わせる曲線が描かれている。曲線の先には、輝くピンクの石。
その石を指でなぞると、描かれたものではなく、半分埋め込まれた本物の石だった。
まさか、と悠久くんの顔を見る。
「何だと思う?」
「わかんな――」
「――ピンクダイヤ」
「ダイヤ!?」
そうでないかとは思ったが、当たりだと知って思わず声が跳ねた。
「そんな高価なもの――」
「――気に入った?」
悠久くんの頭に耳が見える。ピンと三角に立つ耳。
褒めて欲しいと、頭を撫でられるのを待っている犬のよう。
ひゃ、百均ので良かったなんて言えない――!
「ありがとう」と、言った。
が、不服だったのか、悠久くんの頭に見える耳は、パタンと頭に寝てしまった。一緒に、顔が俯く。
「すごく可愛い」
耳が立ち上がり、顔を上げた悠久くんは嬉しそうに笑った。
「着けて見せてよ」
「え……」
「これからは、ゴムで縛らずにこれを使ってよ」
ダイヤ付きのクリップなんて、使えないよ……。
心の中で呟く。
だが、折角彼が私に選んでくれたものだ。
私は左手で髪の結び目を抑え、右手でヘアゴムを解いた。それから、クリップに持ち替えて装着する。
結ぶよりも緩めだが、落ちてくることはなかった。
「へぇ。いいな。可愛いよ」
悠久くんは満足そうに言った。
束ねた髪の毛先を指に絡めて、眺めている。
そんな風に触れられて、見られるのは、恥ずかしい。
それ以前に、彼の膝に足を上げて座っているこの状況が、恥ずかしすぎる。
「ホントに、ありがとう」
羞恥に耐えかねて、私は身体を捻って足をソファから下ろした。
「どこ行くの?」
悠久くんの足の間に座り、背後から抱き締められる格好になる。お腹の前で彼の両手がしっかりと交差していて、解けない。
顔が熱い。
身体も熱い。
「どこにも――」
「――行くな」
うなじに柔らかな感触。
悠久くんの唇も熱かった。
「悠久く――」
「――楽」
彼の手が私のお腹を撫でる。
背筋を指でなぞられたような、じっとしていられないくすぐったさのような、気持ち良さ。
「楽……」
うなじや肩へのキスを繰り返しながら、彼の手がお腹から胸に移動してきた。下から持ち上げるように触れられて、私は思わず唇を噛んだ。
「わかる?」
「え?」
なにがわかるかと聞かれているのか、すぐにわかった。
彼が僅かに腰をずらし、私のお尻に押し付けるようにして気づかせた。
少しだけ硬くなったカレの感触。
一緒に眠るようになってから、時々、彼が反応しているのは気づいていた。
けれど、それは、ほんの一瞬。