三羽雀
春子の苦悩

おきゃん娘

 二人の男が膳を挟み、酒を酌み交わす。
 「(いさむ)くんと春子(はるこ)ちゃんは元気にしているかい」
 「そうだなあ、勇は軍学校でよくやってるようだが……春子はまだ多少おきゃんなところがあるよ」
 息子と娘を一人ずつ持つ男は少し困ったような顔をして見せた。
 「そうは言ってもだ、女の子がいるというのが羨ましいよ。俺のところは一番目も二番目も男だからな」
 もう一人の男には息子が二人いた。
 二人は旧来(きゅうらい)の友人だが、時節柄会ったのは久しく、息子が二人いる方の男が融通を効かせて料亭で食事をすることにしたのであった。その男の名は成田清蔵(なりたせいぞう)という。
 「男ばかりの君の家が羨ましいよ、俺は。なんだ、淑やかで女らしいやつならよかったが、あれには困ったもんだよ。嫁にも貰ってくれる所があるかも分からん」
 御転婆娘に頭を悩ませている男は松原克太郎(まつばらかつたろう)という陸軍の軍人である。
 「いい家が見つかるさ、春子ちゃんなら(むし)ろ縁談は多いものかと思っていたが」
 松原家と成田家が一堂に会することは数度あったが、清蔵の目には、克太郎の娘春子は淑女として映っており、おきゃんなようには見えなかった。
 「春子はおきゃんのくせに男は選ぶからなあ。映画俳優の名前を並べては、誰が素敵だとか一人で延々と語るんだよ。その点、清士君くらい立派なら春子も首を縦に振るかもしれんが」
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