三羽雀
三羽の雀と一羽の烏について

偶然の出会い

 戦争が終わってから三年が経った。
 墨田区となったかつての本所の街の一角に建てられた家具工房の前では、懐かしの三人が談笑している。
 「まあ、偶然ね。私のお友達が二人も一気に集まるだなんて」
 肩に触れる程度の長さの黒く柔らかな巻き髪の女は、口元に手を当てて笑っている。
 「幸枝さん、ご無事で良かったわ」
 安堵(あんど)を含んだ笑みを見せるのは、しゃんとした背中のすらりとした女である。
 「いやね……私は疎開していたもの。きっと誰より大変だったのは志津さんよ、ねえ?」
 巻き髪の女の視線の先には、困ったような笑顔を浮かべる(しと)やかな女の姿がある。
 「いえね、あの時は駆け回って色々な人を診て回るしかなかったのよ」
 「まあ!志津さんの力で助かったかたは多いんじゃあないのかしら。兄から聞いたわよ、この辺りにもいらして救助をなすったとか……春子ちゃん、志津さんはね、薬剤師をしていらっしゃるのだけれどね、とてもよく頑張っていらっしゃって、本当に(すご)いかたなのよ」
 左目の端の泣き黒子(ぼくろ)が特徴的なくりくりとした目元が大きく開かれる。
 「薬剤師といっても今となっては宙ぶらりんで、主人の面倒を見てばかりだけれどね」
 「それを仰るのなら私も同じことですわ!」
 手を叩いて頷くのはかつての陸軍将官の娘である。
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