不妊の未来

○マンション(夜)

理玖「ただいま」

茉由「おかえりなさい」

毎日のように交えていた挨拶なのに、どこか違和感を感じる二人。

茉由「食事の前にいい?」

理玖「あぁ」

理玖は着替えもせずにダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。

茉由はその向かいに座り、話を切り出す。

茉由「理玖さん。私、子供を諦める」

理玖「それってつまり、俺と二人だけで生きていく覚悟ができたってこと?」

理玖の表情がパッと明るくなった。
でも茉由の表情は暗く、首を横に振る。

茉由「私は理玖さんと、愛する人の子供と家族を作りたかったの」

理玖「つまり」

理玖は気持ちが焦り、結論を急ぐ。
茉由はゆっくりとした動作で離婚届を理玖に差し出した。

茉由「短い間だったけど、ありがとう」

理玖は無言で離婚届を見つめる。

それから茉由の顔を見て呟く。

理玖「泣かないんだな」

茉由「え?」

理玖「俺は泣きそうなくらい悲しいのに、茉由はスッキリした顔をしている。なんでだろうな」

理玖の含みのある言い方が気になって茉由は顔を顰めた。

理玖「北條大和」

茉由「え?」

突然大和の名前が出てきて驚く茉由。

理玖「動揺してるな」

茉由「動揺なんて…でもどうして大和先生の名前が今出てくるの?」

意味が分からない茉由に理玖はフッと小さく笑う。

理玖「再婚相手の名前だろ?」

茉由「なんで……?」

茉由は眉を顰めた。
再婚云々は別にして理玖が大和との関係を知るはずがないから。

理玖はおもむろにスマートフォンを取り出し、その画面を机の上に置いた。
茉由は手に取り、画面を覗く。
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