不妊の未来
父「一緒に生活していくのは無理か?」
茉由はまたコクっと頷いた。
茉由「私ね、病気だってわかって正直ホッとした部分もあるの。これで妊娠にとらわれなくて済むって」
病気だから、という名目があれば「子供は?」「妊娠は?」と聞かれることはなくなるだろうし、誰かの妊娠出産にいちいち反応することも少なくなると茉由は思ったのだ。
母「片方の卵巣が残るなら、卵子だけ取り出して…って方法もあるわよね?」
茉由「理玖さんは望んでいないもの」
母「それなら」
結婚生活をそのまま続けたらいい、と母は言おうとしたけど、茉由の顔を見て止めた。
母「もう決めたのね」
茉由「うん」
理玖といたらいつまでも子供のことが頭のどこかで引っかかってしまう。
せっかく子供を諦める名目が出来たのに、採卵したら出来るかも、という期待を抱き続けてしまうのだ。
それに不妊の原因が茉由自身にあったということも大きい。
理玖が言っていたように罪悪感が茉由の中で大きくなっていた。
母「まぁ、今時離婚なんて珍しいことじゃないし。したくなったらまた再婚したらいいわよね」
父「そうだな。今は治療に専念しよう。だからこのまま帰って来い。母さんとのふたりの生活に飽きてきた頃だしちょうどよかったよ」
母「それはこっちのセリフです」
明るく歪み合う両親の姿を見て、茉由も理玖とこんな関係が築けたらよかったと思った。
でもそれはもう叶わないこと。