叶わぬ恋だと分かっていても
「電話、通じなくしちゃってごめん。……なおちゃんが全部私に任せるって言ったから……突き放された気持ちになって悲しかっただけなの」

「――けど、実際俺には菜乃香(なのか)を縛る権利はないから」

 ここへきても尚そんな言い方しかしてくれないなおちゃんは、本当に酷い人だ。

 音信不通にされたからって……わざわざ仕事をサボってまで家に会いに来ておいて、別れるかどうかを決めるのは私だなんて。

 なおちゃんは私に決定権を持たせようとするくせに、こんな風に自分がして欲しい方向へ私を誘導しようとするところがある。

 とてもズルイって思うのに、私はいつも彼の手のひらの上で踊らされてしまうのだ。


 それに――。

 私はこの一晩で自分の本心に気付かされてしまったから。

 例えお母さんを悲しませることになったとしても……。
 周りの人たちみんなが不幸になる結末しかないとしても……。
 私たち自身、地獄に落ちる未来しかないとしても……。

 それでも彼の手を離したくない、って思ってしまった。


「なおちゃん、私、なおちゃんと離れたくない」

 こんなの間違ってるって分かっている。

 だけど……私にはこの結論しか導き出せなかった。
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