叶わぬ恋だと分かっていても
 なおちゃんが立ち上げていた画面がチラリと見えてしまった私は……それがメッセージアプリだったことに気が付いてしまっていたから。

(私と一緒にいるのに……誰とやり取りていたの?)

 自分のことを棚に上げてそう思ってしまった。

 もちろん、奥様という可能性だってあるはずだ。

 なのに――。

 垣間見えた画面に、やたら可愛いスタンプがひしめき合っているように見えたことに、心の中にポツンと一滴墨汁(ぼくじゅう)を落としたみたいなモヤモヤが広がっていくのを止められないの。

 加えて、つい今し方まで私を抱きたいと熱い視線を送っていたなおちゃんが、やけにアッサリ引き下がってくれたことも、不安に追い打ちをかけてきた。

(ねぇ、菜乃香(なのか)。貴女、バカなの? 病気で入院中の家族からの呼び出しに、ぐちぐちと難癖つける方が問題あるでしょ)

 そう考えて動揺する気持ちを否定してみたものの、すぐに(でも……その電話はさっき話したタツ兄の携帯電話から掛かってきてたんだよ? 何で気にしてくれないの?)と思ってしまって。

 打ち消しても打ち消しても何故か(おり)のように鬱々(うつうつ)とした気持ちが心の中にわだかまって……私は気持ちが沈んでいくのを感じずにはいられなかった。

 ――ねぇなおちゃん、『そんなの菜乃香の杞憂(きゆう)だよ』って笑い飛ばして? お願いだから。
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