叶わぬ恋だと分かっていても
梅雨の長雨―忘却―
 なおちゃんにお別れを告げて、タツ(にい)とも疎遠(そえん)になって。

 だけどお母さんの病状の目まぐるしい変化に追われる日々の中、私にはそのことを悲しむゆとりなんて残されていなかった。

 それがある意味良かったのかも知れない。


***


 結局お母さんは胆管を通すための開腹手術もうまくいかなかった――。

 お腹を開けてみたら思いのほか内臓という内臓がもろくなっていて……先生はどこにも触れることが出来ずに開けた傷口をただ閉じることしか出来なかったらしい。

 ――現状ではあと二週間、持つかどうかだと思います。

 術後、主治医から告げられた言葉は、お母さんの余命があと一ヶ月もないという非情なものだった。

 残された期間が半年だって一年だって……きっと伝えることが難しいだろう余命宣告。
 たった二週間だと言われたそれを、私はどうしてもお母さんに伝えることが出来なかった。

 伝えられなかったのはそれだけじゃない。


「手術も頑張ったし、お母さん、どんどん元気になるね」

「うん。そうだね。早く退院して、また美味しいご飯作ってもわらなきゃだもん。楽しみにしてるから」

 手術の成功を信じて疑わないお母さんに、お姉ちゃんもお父さんも私も……。
 誰ひとり何も出来ずにお腹を閉じただけなんて……言えるわけがなかったの。


***


「雨、すごいね」

 時節はジメジメとした梅雨に入っていて、連日のようにシトシトと雨が降り続いていて。

 大きく膨らんだお腹から伸びた管の隙間から、絶えず腹水が漏れ出るようになってしまったお母さんは、しょっちゅう着替えを要するようになった。
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