叶わぬ恋だと分かっていても
*梅雨の長雨-恋慕-
 結局その日タツ兄から仕事を終えたと連絡が入ったのは、二〇時過ぎのことだった。

 タツ兄から『今日は一緒にお母さんのお見舞いに行けなくてごめんね』とメッセージが入るや否や、私は我慢出来なくなって彼に電話をかけていた。

 丁度携帯を手にしていたときだったからかな?

 ワンコールも鳴らなかったんじゃないかしらという素早さで、『なのちゃん?』とタツ兄が電話に出てくれた。

 私は穏やかな(なぎ)の海みたいな彼の声を聴いただけで泣きそうになって。

『何か……あったの?』

 優しく問い掛けられたらもう駄目だった。

「そ、れでね、お母、さっ、……好きだったお、花の名、前もっ、忘、れちゃってて……」

 グシュグシュと鼻を鳴らしながら今日お見舞いであったことをタツ兄に嗚咽(おえつ)混じりに話したら、タツ兄は時折『うん』とか『そっか』とか『それは辛かったね』とか……。
 とにかくただただ私の言葉を全て肯定するような相づちを打ちながら、静かに話を聞いてくれて。

 私はタツ兄に思っていたことを心のままに打ち明けるうち、少しずつ心が落ち着いていくのを感じた。

『――もう遅いからどうかなって思ったんだけど……ちょっとだけなのちゃんの顔、見に行ってもいい?』

 話が一通り終わって間が出来たと同時。

 タツ兄がそう聞いてきて。
 夕方からずっとタツ兄に会いたいと思っていた私は「私も会いたい。けど――」と答えていた。


 時計は電話を始めてから約二時間後の二十二時を指していた。
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