叶わぬ恋だと分かっていても
*俺だけの特権
「あのね、《《なおちゃん》》、私、市役所の臨時雇いの更新、次はしないでおこうと思うの」

 ブラウスの前を肌蹴られて、スカートの中は何も身につけていない状態で彼と繋がっている。

 向かい合うような格好で、後部シートに座る緒川さん(なおちゃん)の上に(またが)った状態で交わしていた口付けを(ほど)くと、私は静かにそう告げた。

「正社員の仕事を……探そうと思ってて――、んっ……」

 今、彼から離れたばかりの唇を割り開くように節くれだった男らしい無骨な指が侵入してくる。
 その指先に口中を好き勝手に侵蝕されながら、ぼんやりと考える。


 今まで私は1年半近く、正規雇用職員ではない、雇用期限のある雇われ方のもと、数ヶ月単位でほんの少しのお休みを挟んでは市役所内の課を渡り歩くような仕事の仕方をしてきた。

 最初はなおちゃんと同じ課。
 半年経った頃に、別の課――下水道課――へ配属になって。
 それを機になおちゃんから告白されたのが数ヶ月前のこと……。


 下水道課での雑務も、そろそろ半年。任期が切れる頃合いだ。

 少しお休みをしてまた別の課へ行くか。もう辞めてしまうかを選択しないといけない。

 今までは何とも思っていなかった、そんな根無草(ねなしぐさ)のようなふわふわとした働き方が、何だか急に虚しくなって。

 下水道課での任期を満了したら、もうこの仕事は続けまいって心に決めた。
< 38 / 242 >

この作品をシェア

pagetop