雪のとなりに、春。
「うわぁっ!?」

「!?」


急にドアが開けられて体勢を崩しながらリビングに姿を現した、1人の……女の子。


腰まで伸びた長くてさらさらの淡い青色の髪が、散るように踊って。
そうして肩に流れるように落ちるまでの一瞬が、きれいで。
……まるでスローモーションに見えた。

まっすぐの前髪の間からのぞくガラス玉に自然と惹きつけられた。
アイラインなんて必要としない、まるで猫みたいな綺麗な目。
やがてそれは私をとらえて、冷ややかに光った。


「……あ……」


思い出した。
つい最近、教室の窓から一瞬見えただけなのに、こんなにも鮮明に覚えている。

近くで見ると、あまりの綺麗さに息をするのだって忘れていた。


「あなたが小日向 花暖(コヒナタ カノ)?」


明らかに敵意を向けられているのがわかっているのに、自分の名前を発音する響きの良さにまた呼吸が止まった。思っていたのよりも低くて、冷たい。
それでも体は反射的に動いてくれて、気付けばその場に立ち上がって頷いていた。


「そう。やっと会えて嬉しいわ」


嬉しそうには見えないのは、浮かべられている笑みが冷たいから。
彼女が何かする度にいちいち思考が停止しそうになる。
その冷たい微笑みですら綺麗だなんて、本当に世界は不公平だ。

細い体はすぐ傍にいる雪杜くんにそっと近寄り、彼の腕に絡まるようにゆっくりと自分の腕をまわした。


「はじめまして小日向 花暖。わたしは雪杜 奏雨(ゆきもり かなめ)。奈冷の婚約者よ」

「違います」


間髪入れずに雪杜くんの声がしたとともに、彼女……奏雨ちゃんの手を優しく外した。


「ただの従妹です」


紺色が私を見て、それから顔、体……と順番に私を向いて。
目が細められる。


「婚約者っていうのは、奏雨が勝手に言ってるだけだから」


強くまっすぐ私に伝えてくる。

この場にいる人じゃなくて、私に。

「違うよ、安心して」って言ってる。


……それなら、私は信じて飛び込むだけだ。



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