離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 明かりを落とした寝室でぼんやりと天井を見上げていると、隣にいる琴子が寝返りをうつ気配がした。

 そっとパジャマのすそを掴まれた。
 
「どうした?」
 
 たずねると、少しためらってから口を開く。
 
「忍さん、ぎゅってしたいです」
 
 そんなかわいいおねだりに、苦笑して首を横に振った。
 
「今日はやめておこう。抱きしめてしまったら、もう我慢できる気がしない」
 
 今こうやって一緒に寝ているだけでも、かなり理性の限界が近いのに。
 
「我慢しちゃうんですか?」
「琴子は具合が悪いだろ。無理はしないほうがいい」
「もう平気ですよ。点滴を打ってもらったし、お薬ものんだし」
「でも、万が一無理をさせてまた琴子の具合が悪くなったら、お義父さんに国外追放される」
 
 俺の冗談半分の言葉に、琴子はくすくすと肩を揺らした。
 
「そうしたら、すべて捨ててふたりで知らない国に行って、幸せに暮らしましょう」
「たしかに、琴子とならどんな国に行っても幸せになれそうだ」
「私も、忍さんがいてくれたら、この先どんなことがおきても不安はないです」
 
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