離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
6 作為的な忘れもの
◆作為的な忘れもの





 新居に引っ越してから二週間。
 

 宣言通り忍さんはこの部屋にやってくることはなかった。
 
 婚姻届けは岩木さんが提出してくれたらしいけど、まったく結婚した実感がない。
 
 政略結婚と聞いていろいろ想像したり心配したりしていたけれど、こんな新婚生活になるなんて予想外だ。
 
 私は毎朝ひとりで朝食を取り、洗濯機を回しながら掃除をはじめる。
 
 豪華で広い部屋を隅から隅まで掃除しても、住人がひとりじゃそれほど汚れることもなく、あっという間に終わってしまう。
 
 家事を終え、綺麗になった部屋を見回す。
 
 整理整頓され、ほこりひとつ落ちてない。
 
 特別綺麗好きなわけでもないけど、やるべきことをきちんとこなすと肯定感が高まる。
 
 大変だったり思い通りにいかなかったり、生きていればいろいろなことがあるけれど、そんなときこそ自分のできることをきちんとこなしなさい。そして、それができた自分をほめてあげなさい。
 
 そう教えてくれたのは亡くなった母だ。
 
 今日もきちんと掃除をしてえらい。
 
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