きみに ひとめぼれなおし

澄んだ空色の空に、サッカーボールがポーンと跳ね上がる。
とても緩やかに、春の穏やかな空気をまといながら。
そのボールを蹴り上げた、彼のように。

私はそのボールの軌跡を、目でじっと追った。
空の青の中で、ゆるゆると浮かぶボール。
動いているのか止まっているのか、わからない。
そんなボールを、私と同じようにサッカー部員たちが追いかける。
みんなの視線が、ボールだけに集まる。

長い滞空時間を経て、ボールは手を挙げてパスをアピールしていた部員の足元に見事着地する。
そして再び、砂埃を上げてグラウンドを転がりまわる。
そこからは、ボールが上手く追いかけられない。
あっという間に、ものすごいスピードでサッカーゴールに打ち込まれる。
打ち込まれた時の音が、気持ちいいほど空を貫いていく。

ピッという鋭い笛の音と共に、黄色い歓声がグラウンドに響く。
グラウンドの中央では、シュートを決めた広瀬君が、他の部員に肩を叩かれたり、頭をくしゃくしゃっとされたり、背中をたたかれたりしながら、さわやかにコートを横切っていく。

「おお。今日も広瀬は絶好調だねえ」

頬杖を突きながらグラウンドを見下ろす由美をちらりと見てから、「そだね」と気のない返事だけを送って、私は早々に問題集とノートに戻った。

「あれ? 興味なし?」
「別に」
「ほんとは気になってるくせに。サッカー部」
「なってないよ。ほらほら、勉強しなさい。受験生なんだから」
「あかりも応援しに行けばいいのに。こんなところから地味にチラチラ見てないでさ。彼女なんだから、堂々とすればいいじゃん」
 
私はもう一度、視線だけを外にやる。
グラウンドの脇には、女の子たちが集まっている。
同級生も、後輩も。
誰もが顔をめいっぱい崩して、恥ずかしげもなく、サッカー部の応援にいそしんでいる。
そのほとんどが広瀬君のファンだ。
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