もう遠慮なんかしない
始動

私、中西凛花(なかにしりんか)は、学生時代に興味半分で受講したセミナーで講師をしていた人に憧れシステムエンジニアを目指し、今はプログラマーとして経験を積んでいる。

その講師に憧れて必死に勉強してIT系の資格もいくつか取得し、なんとその人が勤める会社に就職することができた。

ただ、仕事の先輩としては尊敬しているが、私生活の方はとても尊敬できる感じがしなかった、と分かったのは入社して間もなくのことだった。

「中西さんはうちの社が第一志望だったんだ?」

「はい、学生の時に高宮さんと相澤さんが講師をされていたセミナーを受けて、ぜひ入社したいって、頑張りました」

胸元で握りこぶしを作り、笑顔で先輩に答えた。

「あの二人に憧れてか…分かるわ。でも、高宮社長は彼女がいるらしいわよ。相澤さんは特定の人がいないみたいだけど、ずいぶん遊んでるって聞くし…私は論外かな。あれだけの仕事をこなして、遊ぶ時間まであるっていうんだからただ者じゃないわよね」

「あの…そういう対象で見てる訳ではないんですが…」

「あっ、そうなの?そういう子多くて。同じ会社なら近づきやすいって考えて入社した子は結構辞めていくの早いんだよね。てっきりそうかと思っちゃった」

ごめんね。と話してくれた先輩は彼氏がいるから、二人には感心がないそう。
私は苦笑するしかなかった。

(でも…先輩、ごめんなさい。私…本当は相澤さんのファンなんです…。一目であの自信溢れる笑顔に惹かれました。…なんて素直に言えなくて、すみません。本当に一緒に仕事ができるだけで満足なんです)

それは、決して声に出して言うことはない、私の心の中だけの秘密だ。

「うちのプログラマーの江川さんもなかなかイケメンだよ。三人の中では一番真面目そうだし、誠実そうって。これも噂ね。でも、浮いた話が聞こえてこないから、本当なのかも。しかも三人が仲いいから、三人で歩いていると、よく女性が振り返るらしいよ」

「へぇぇ。納得です。でも、私…そんなすごい方たちと一緒にお仕事できるだけで大満足です」

「中西さんは真面目ね。とりあえず、何か分からないこととかあったら、悩まずに声を掛けてね」

「はい。ありがとうございます」

私は3年先輩の古田さんの指導のもと仕事に励んだ。
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