もう遠慮なんかしない

その日の夜、田代さんは電話を掛けてきてくれた。

私たちは食事に行く約束をし、その場で正式にお付き合いを始めることになった。

付き合いだすと昭人さんは毎日「おはよう」と「おやすみ」をするために電話をくれた。

時間が合えばご飯を食べに行ったりもしたが、私の方が昭人さんの会社のシステム開発と並行して行っていたプログラミングの方の仕事が大詰めになり、なかなか時間が合わず声を聞くこともなくなりしばらくメッセージだけの連絡になってしまっていた。

気がつけば付き合い始めて1ヶ月という期間が過ぎていた。

『今夜も忙しそうだね。もし、電話出来そうなら電話してほしいな。たまには声が聞きたいよ』

1時間ほど前に入っていたメッセージを見て、私も声が聞きたいな…そうは考えるけれど、時刻は23時になるところでこんな夜遅くに電話をしていいものか悩む。

悩んだ結果、メッセージを送信する。
『今帰りました。夜遅いのでメッセージにしました。週末納期なので今度の土日は家でゆっくりします』続けてネコの『おやすみなさい』スタンプを送った。

すると、スマホに着信『明人さん』と表示された。

「もしもし。明人さん」

「もしもし。遅くにごめん。でも、どうしても声が聞きたくてさ。どう忙しそうだけど、身体大丈夫?」

「うん。大丈夫…ありがとう。もう少しだから…来週からは早く帰れそうなんだ」

「そうか…良かったよ。ねえ、土日は家にいたいって書いてあったけど、凛花の家に行ったらダメかな?」

「えっ?」

「ダメ?」

「ダメじゃないですけど…最近帰りが遅くて部屋も綺麗じゃないし、掃除とかしようかなって考えてて…」

「一緒に掃除するよ。ご飯も作ってあげる。会いたいんだ。凛花は会いたくない?」

掃除を一緒にしてくれる、って申し訳ないと考えるけれど、私は正直な気持ちを呟いた。

「…はい…会いたいです…」

「じゃ、土曜日の11時に行くよ。それなら、少しゆっくり眠れるだろう。約束だよ」

「わかりました。じゃあ、11時に」

「うん。おやすみ。ゆっくり休んで」

「おやすみなさい」

短めの会話でも声を聞くだけで、嬉しくなって心が満たされる。

明人さんはこんな私の気持ちがわかって電話してくれたのだろうと考えると、私にはもったいないくらい素敵な人だと改めて思いながら、布団に入り眠りについた。
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