僕だけが知っている、僕たちの奇跡



 重たい雨粒が多くの傘を叩く梅雨のとある日。


 豪雨に捕らわれてしまった君は、いつもどおりに裸足で横断歩道へ飛び出した。


「どこにいるの」


 感情のない表情、初めから終わりまで変わらない声のトーン。


 彼女は、迷子の子どもがお母さんを探すみたいにきょろきょろと辺りを見回す。


 くるりくるりと忙しない君は、まるで道路の真ん中で軽やかに踊っているようで。


 豪雨の中でそんなことをしているから、通行人の視線を独り占め。


 ヤキモチ焼きな僕はたったそれだけのことで嫉妬してしまう。彼女を見ないでくれって声を張り上げたい。


 だけど、僕が彼女を独占する権利は残念なことに失われてしまった。……はず。


「私は誰を探しているの?」


 点滅し始めた青信号。


 赤になる前に渡り終えた彼女は雨の中に言葉を投げる。


 それは激しい雨音に掻き消され、道行く人々には届かない。


 ただ、すぐ近くにいる僕だけは消える前に彼女の虚しさを掬い取って、


『君は僕を探しているんだよ』


 空っぽな彼女の問いに答えを返してあげた。残酷にもそれは彼女へ届かないんだけども。



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